第二百二十九話
ハマーンが操縦するMDのデータを取っているとジュドー達も見ていたようで、騒いでいる。
そしてその団体は私の部屋に向かっているのを察知する。
「面倒なことになりそうだ」
どうせハマーンに触発されて、自分達にもMSなりMDなりを操縦させて欲しいとかそのあたりだろう。
気持ちはわからないわけではない。眼の前に面白そうな玩具で遊ばれていればそういう気持ちにもなる。それが例え、事故が起こる可能性があったり、人殺しの道具であることを知っていても、だ。
人の欲とは罪深いものだな。もちろん私自身がその最たるものである自覚はある。
「ちょうどいいと言えばちょうどいいか」
今まで練習機というのは旧式化したキュベレイであったが、キュベレイでは高スペック過ぎて初心者(ジュドー達だけではなく、プルシリーズでも)が扱うには若干難があることがわかっている。
少し前から訓練用のMSを設計することを視野に入れていたのだ。そのテストにジュドー達を使えば今後のプルシリーズ以外の検体の訓練マニュアルを作ることが可能だろう。
私が今まで検体としてきたのはプルシリーズを除けば、既にパイロットとして教育を受けたものばかりだったため、通常のパイロット訓練マニュアルなど存在しないのだ。プルシリーズの教育など常人に課せば死んでしまうか生まれつきの天才以外ない、と効率的ではない。
ならばとスペックが低い旧式化したMSで訓練させるのはサイコミュの有無が致命的であるし、今更外付けのサイコミュなど手間でしか無い。
そこで考えたのが訓練機の開発である。
もちろん私が考えているのだから通常の訓練機ではなく、あくまで予備戦力として期待できる訓練機である。
4年に地球圏を離脱することが決定し、それまで防衛戦力が使えれば問題ないということも後押しとなった。
「とは言っても所詮は訓練機だがな」
デザインはキュベレイをベースにするが、最大の特徴であり、操作技術を必要とするフレキシブル・バインダーを取り外し、その代わりに全体的に装甲強化を施した。
そして失われた運動性と機動性は多数の姿勢制御バーニアを付けることで確保した。姿勢制御バーニアにはリミッターを付けることで訓練機と同時に実戦にもある程度は対応できるようにできるはずだ。
ちなみにこのコンセプトはシロッコのジ・Oを参考にさせてもらったものだ。
そして武装であるが、ファンネルを主武装として両腕部にメガ粒子砲を2門ずつのみとした。
これはあくまでこの機体が訓練機兼緊急時における支援機であるため、白兵戦能力を排除して遠距離主体とするためである。
それに伴ってサイコミュもキュベレイやストラティオティスなどよりも遠距離仕様とする予定だ。通常よりもパイロットに負荷が掛かるが、それぐらいは良い訓練と割り切る……というよりもそこまで甘やかすつもりはない。
ただし、欠点が無いわけではない。
機体がキュベレイに比べて重いことやそれをカバーするために姿勢制御バーニアを多く搭載したことで燃料の消費が激しい上に、ファンネルも遠距離仕様ということで燃料の消耗もあり、継戦能力が乏しいのだ。
「少々不格好ではあるが、初心者にはこれぐらいがいいだろう」
この訓練機はキュベレイ・アルヒ(ギリシャ語で『始まり』という意味)と名付けたのだが、そのずんぐりむっくりな豊満ボディがハマーンやプルシリーズ、そして意外なことにファやフォウ、リィナなどの女性陣のほとんどから可愛いと人気になり、なぜかミソロギア内のマスコットキャラクターになってしまったのは余談だ。
そしてそのマスコットキャラクターの名前はアルヒちゃんである。
そこはそのままらしい……改めて私の感性と女性の感性では大きな隔たりが存在することを確信した。
ちなみにスミレだけは機能的じゃない!というなんとも科学者らしい言い分であまり好みではないらしい。