第二百三十話
「……ところであのようなMSは昨日、いや、今朝まで見かけなかったと思うのじゃが」
「40分で仕上げたな」
さすがに40秒で支度(設計)はできなかった。まだまだ研磨が足りんな。
「……40秒で仕上げた設計と製造したMSなどと知れたら不安に思うかもしれんからそこまでやらんでいい」
言われてみれば確かに私は私の才能を信じているし、プルシリーズやハマーンも信じてはいるだろうが、MSを即席麺よりも速いスピードで完成させては不安に思っても仕方ないだろう。
(そう思うなら40分でも不安になるという点に気づいて欲しいがな)
とはいえ、今回のキュベレイ・アルヒはほとんどキュベレイをベースにしたものであり、新技術は強いて言えば強化人間人格OSの最適化したしたことぐらいだろう。
強化人間人格OSもデータの蓄積によって随分と精度が高い処理を行うようになってきたので新兵の補助にはちょうどいいだろう。
特にパイロットに極度の緊張による思考の硬直やパニック症状が現れた時など正常な判断を下せない時などに強化人間人格OSが勝手に回避行動や反撃などを行うことができる。それゆえの訓練機とも言えるな。
「今回のMSに限ってはいいものであるとは思っておる」
…………ジャミトフ、貴様、プルシリーズに甘すぎるぞ。貴様の表情は祖父が孫の自転車の練習を見ている時のそれみたいだ……もっとも自転車なんぞエアロバイク(ジムにある運動用のやつ)以外見たこと無いがな。(自転車自体は普通に使われているが、アレンの生活圏にそんなものはなかった)
「しかし、なぜIフィールドを搭載していないのだ?」
「あくまで訓練機であり、支援機だ。前線に出すつもりはない」
「だが、それでも守りは厚くしておいて損はないじゃろう」
「これだからパイロット経験が無いオールドタイプは困る。あのいい加減ずんぐりむっくりな機体にIフィールドなど搭載すればどう考えても重くなって運動性がほぼ無くなるだろう」
「それを差し引いてもあの防御力は魅力的だと思うが……」
「ニュータイプにとって鈍重なMSがどれだけストレスとなるのか、わかりやすく言えば歩兵装備で水の中で動くイメージが近いか」
本当にストレスなんだ。
あのMDの反応の悪さは本当にイライラして仕方ない。
何度うっかり感情が漏れ出てプルシリーズの洗濯物を増やしたことか……皮肉にもこれの経験で自身のニュータイプ能力が向上していることがまたなんとも。
……ふむ、サイコミュを応用して感情漏れを防ぐことができない研究してみるのもいいかもしれないな。
プル24のようにまた誰かが戦死した時、私の感情漏れが周囲にどのような影響を及ぼすかがわからんからな。敵ごと巻き込んで行動不能などならいいが、十中八九ニュータイプであるプルシリーズの方が悪影響を及ぼすだろうことは容易に想像ができる。
万が一に備えておくべきだろうな。
「しかし……いや、これ以上はいらぬお節介か」
「いらないわけではないだろう。いくら私が天才だからと言って何もかもが完璧にできるわけではない」
「おぬしは色々と素直だな」
「私の最大の美徳だ」
「そして最大の欠点だな」
『お、おおおぉぉぉ?!』
『ぐええぇぇ』
『たっっのしー!!』
『ひゃっほ〜!!』
通信から流てくる声の持ち主は、ビーチャ、モンド、エル、ジュドーである。
まぁ初めてのMSの操縦でテンションがあがるあたりは子供らしいな。
「そういえばアレンが初めてMSを操縦した時は後で息絶え絶えだったわね」
「私の身体はあんなGに耐えられるように設計されていない」
「それであのパワードスーツを作ったのよね」
「いや、あれは対Gスーツだ。異論は認めない」
「あれって今どうなってるの?なんかMSの装甲を撃ち抜いたって話があったと思うけど」
「それはザクIの1番薄い背面の装甲の話だな。今なら1番厚い装甲のコクピットでも撃ち抜けるようになっているぞ。まぁ撃ち抜くと言っても装甲を凹ましてコクピットを圧壊させるだけだが」
「……やっぱりパワードスーツよね?」
「対Gスーツだ」
異論は認めない。
しかし、さすがにガンダリウム合金は撃ち抜けないのだが。