第二百三十一話
「帰る」
「嫌だ」
「子供?」
「嫌なものは嫌よ」
「プル達に笑われる」
「いつも笑っているから今更よ」
というやりとりをしているのはハマーンとイリアの2人である。
簡単に今の状況を説明するとハマーン達の休暇が終わり、別れの時なのだが……ハマーンが駄々をこねているのだ。
それを見て、確かにプルシリーズは笑っているが、明らかに苦笑いであることが見て取れる。笑われるより辛くないか?
まぁ、この短い間に今まであれだけ仲が悪かったのに、なぜか随分と普通の意味で仲が良くなったようなので問題はないはずだ。
ハマーン達に付けるプルシリーズは50人と大幅増員させた。
決してミソロギアの人員に余裕があるわけではないが、辺境で完全な独立を目指すとなれば組織運用のノウハウの入手、ハマーン達の時間確保のための人員、最近ミネバ派……いや、厳密に言えばザビ家派というべきか……の早くも平和ボケが加速しているようで、以前から近い将来ハマーンが国を乗っ取るのではないか、乗っ取る前に排除すべきなどと謳っている派閥であるが、最近になってその中の武力よる排除を推す過激派が更に勢力を強くしていることを受け、護衛という本来の意味での増員でもある。
もっともこれらは全て本命ではなく、おまけでしかない。
本命は、派遣しているプルシリーズがクローンであることを隠すために、自室ですら気を抜くことができないという苦境を改善するために、完全なプライベートスペースを確保するためにネオ・ジオンに新たに製造する戦艦を派遣することが決定し、その運営人員という側面が強い。
この戦艦は、万が一ネオ・ジオン内でクーデターが発生した際には脱出艇としての役割を兼ねている。であるから当然キュベレイ・ストラティオティスも搭載予定である。まだ設計図どころかコンセプトすらも決めていないため、詳細は何1つ決まっていないが、な。
ただ、50人では護衛と戦艦の運用という2つを両立させるには戦艦のフリーメンテナンス化を進めたとしても難しいので更に増員させる予定である。
それはともかく——
「後4年の我慢だろう?ハマーンならやれるさ」
「……」
気持ちはわからなくはないがな。
信用できる人間は少なく、あまりやりたいわけでもない仕事を頑張っているにも関わらず、今度は自分を邪魔者扱いするようなやつが多くいる家なんぞに帰りたくはないだろう。
そういえば、統計は取っていないがニュータイプというのは物欲や権力欲はあまり強くない傾向な気がする。
もしハマーンがニュータイプでなかったならそちらに目を逸らすこともできたのだろうが……そもそもニュータイプでなければ私が協力することもなく、アクシズが独立することもできなかっただろうな。
「アレン」
ちょいちょいと手招きされたので近寄ると——
「むぐっ?!」
今、私は……接吻、キス、ベッソ、オスクルム、フィリ、パツィルーイ(全て同じ意味)をされている。
「ん、これで4年間頑張れる。ではまたな。アレン」
顔を真赤にして逃げるように船の中へと消えていった。
「……真意はともかく……ハマーン、船の中にもプルシリーズがいることを忘れていないか?」
背後から感じる好奇心(若いナンバー)とどす黒い嫉妬のオーラ(上位ナンバー)とは別に船の中からも同じような思念が感じられた。
というか、良好の関係を自分から壊してどうする。
「……アレンさん、随分と冷めてますね?」
「スミレは私にどういう反応を期待していたのかな。……まぁ、ハマーンがあれで頑張れるというなら安いものだろう」
男の貞操など女性の貞操どころか機嫌よりも安いものだからな。
「ハマーンの一世一代の大勝負は破れたわけね」
スミレは勘違いしているようだが、私は『価値』は語ったが、自分の『気持ち』を語ってはいないのだがな。