第二百三十二話
「さて、本格的に動くとするか」
4年で地球圏離脱するとなればやることが多い。
まず外事については、警備業務の契約更新を4年後に取りやめることとを取引先に通達しておいた。
続いてMSを卸しているサイド6に関してだが、MSの生産を不死鳥の会に引き継ぐことにした。
ついでに不死鳥の会にMS開発のノウハウを今まで以上に提供し、あまり時間は割けないが共同開発を行い、ネオ・ジオン開発部と競う予定だ。
具体的には鹵獲した最新型のMSを製造しやすいように私達の技術で再現したり、その設備を提供したりなどだ。
後、不死鳥の会の餌として俗的な言い方をすれば若返り薬の開発に着手した。
肉体異常系の病は私の手によって強化された身体であるため解決しているが、老化現象も緩やかにはなっているのだが、それで満足しない者達がいるのだ。
わざわざ私が期待に応える必要はないのだが、多少の甘い蜜を用意しておけば無理な注文が通りやすくなるからな。
そして内事は物資の蓄積とプルシリーズの増産、農業プラントの拡張、警戒用のMDの更新、次期主力機の開発——
「そういえば地球圏から離脱するならクローンの存在が表に漏れても問題ないか?」
ジャミトフに選択肢はないが、カミーユ達……は微妙だが、ジュドー達はただの雇用関係だ。
クローンという存在が漏れる可能性があったので外部との接触を禁じていたが、地球圏を離脱するなら、その時に残りたいかどうか意思確認するのもいいだろう。
私の正直な意見を言えば、彼等の身のためにこちらに残って欲しいものだ。ニュータイプ研究ではパイオニアを自認する私の下にいたのだからアナハイムや連邦が黙って見過ごすなどということはまずないだろう……いや、更にネオ・ジオンからも声が掛かるか。
ネオ・ジオンからもに行くぐらいなら別のところに行ったほうがいいだろうな。最悪試験管の中に脳だけ、などということもありえるからな。
やはり社員の退職後の職業斡旋も雇用主が持つ責任の1つだろうな。
ハマーンがいないネオ・ジオンなど砂糖をハバネロに置き換えたケーキみたいなものだから候補から外す、となれば他には縁があるのはエゥーゴのシャアぐらいしかいないか。
「意志の確認は早くしておくべきだろうと思ってな」
「そっか、俺達、自由になるんだ」
4年後の話だがな。
「今でもすごいお金が貯まってるぜ!これなら外で働く必要ないな!」
「あら、ビーチャはここを辞めるつもりなの?」
エルのツッコミにビーチャは少し慌てた様子で応える。
「それなんだよなー。実験は苦しいことも辛いことも多いけど、それが必要なものだとわかってるから受け入れられるし……思ったよりここの生活は楽しいしなー」
「ここは理不尽なことが少ないのは良いことだな」
「そうだな」
(ビーチャもモンドもアレンさんに毒されすぎじゃない?アレンさんは随分と理不尽が多いと思うんだけど)
あの2人の思考誘導は成功しているようで何よりだ。しかしアーシタ兄妹とエルの思考誘導はなかなかうまくいかない。
リィナとエルがうまくいかないのはある程度予想ができていた。女性への思考誘導はかなり難しい。というのも女性は感情を優先するため、短期思考誘導は簡単でも、長期思考誘導もしくは蓄積型思考誘導などは土壇場で覆されることが多々あるのだ。
ジュドーに関しては、発言や行動から発する能天気さや気軽さの反面、好き嫌いがハッキリしている。つまり、自分という個を強く持っているということでもある。まぁ、言い方を変えれば我儘とも言えるのだが。
そのため、日常の行動をコントロールができても物事の好みを誘導することは難しい。
「私はここに残った方がいいと思います」
1番最初に賛同の意を表したのはリィナだった。
「心配のし過ぎだと思うところもあるんですけど、このまま私達がここ以外で生きていくのは難しいと思うんです」
どうやら私が説明するまでもなく、そこに思い至ったらしい。手間が省けて助かるな。