第二百三十三話
リィナは残る理由を述べた。
それはアナハイムの闇の部分を思いの外重く見ていることを語った。
……というか私が知らない情報まであるようだが?
「それは私が教えた」
なるほど、ティターンズ総帥であったジャミトフなら私以上にアナハイムの闇に詳しいだろう。何より現在も目下の敵であるアナハイムのことを調べているのはジャミトフの手下だから現状も把握できているだろう。
しかし、ジャミトフ、私が言うのもなんだが、まだ裏の話を教えるには早くないか?
「……助かる命、狭き場所ながら幸せになるチャンスを与えてもいいだろう」
何を幸せと感じるのかは人それぞれ……というのは簡単だが、薬漬けモルモット(強化人間or実験台)や解剖、ホルマリン漬けにされるよりは確実に幸せな未来か。
下手をすると脳だけの状態で意識があるなんていう生き地獄を味わうことになる……旅立つ前にアナハイムは滅ぼした方が人類に良い気がしてきたな。
「それも1つの手かもしれんな。地球復興事業の障害となっているのも国会が泥沼になっているのもネオ・ジオンの過激派を煽っているのもアナハイムのせいだからな」
「……ネオ・ジオンの過激派については聞いてないぞ」
「それはハマーンがこちらに来て情報の摺り合わせを行い、裏とりを行ってつい先日判明したことだ」
これが報告書だ、と資料を受け取る。
ジュドー達の雑談のような会議はまだ続いているようだし中身を確認しておくか。
「これはこれは……」
武断派の中でも過激派である人物は予め危険性が高い者をピックアップしてリスト化していたが……まさかの全的中とは笑ってしまう。
「アナハイムのお得意な部署分けによる独断行動か」
アナハイムは組織としてはかなり大きいが、その内情はかなり複雑で、吸収した企業をそのまま部署に置いたり、用途に分けで部署化している。
そしてその部署がそれぞれ独立清算制を採用していることから責任のあり方は個々の部署が持つ。つまり、子会社が行った悪行はアナハイムの責任ではなく、あくまで子会社の責任ということになるという分かりやすく言うと、正々堂々としたトカゲのしっぽ切りだ。信用は多少損なうが、既に地球連邦の中枢まで手を掛けている状態なので多少の問題はないだろう。
それに、今回は連邦にとって2大仮想敵国の1つが相手の内部分裂を促す動きなので責められる要素は少ない。
ちなみにもう片方の2大仮想敵国は私達であるのは言うまでもないことか。
「本当に面倒な組織構造だな」
それには同意する。
よほどのことがない限りアナハイム自体を崩すのは難しい。
「不死鳥の会の会員を増やせばあるいは私達が連邦を掌握することも夢ではないが?」
「それは私にずっと不老化していろと言いたいわけか?」
不老化はそれほど難しいものではないが、そのかわりにひたすら時間がかかる。
今の不死鳥の会ですら頻繁に病気持ちの親族を治療させに来て時間ロスがあるというのに連邦の政治家連中まで手を広げる?私に研究どころか寝る暇すらも与えないつもりか。
「そんなことをするぐらいなら後腐れなく月を粉砕する」
「それをすると地球の人類は壊滅するのだがな」
月がなくなると地球の自転が速まるからな。1日が6時間の世界というのは住みにくいだろうな。
「まぁ旅立つ前に地球のためにアナハイムを消すというのも1つの善行か」
「……今までの鬱憤を晴らしたいだけだろう」
色々溜まっていないと言えば嘘になるな。