第二百三十四話
結局ジュドー達は私達についてくることにしたようだ。
検体が多くいる分には歓迎してやろう。
ちなみにカミーユ達から、ここに残るという返事も貰っている。
カミーユ達がここに残るのは幾つか理由がある。
1つは移住先を見つけることの困難さ。これは重婚が認められる地区がほとんどないことが難易度を上げている。
2つ目はやはりロザミア・バダムの治療だろう。現在はほぼ記憶を取り戻しているのだが……どうしても家族の記憶だけは取り戻せない状態だ。
家族がいるのは間違いないようなのだがな。
3つ目はジュドー達やプルシリーズを見捨てていくことができないそうだ。逆説的に私やハマーンやスミレ、ジャミトフは見捨てていけるらしい。まぁ見捨てたところでバラバラならともかく、同じ組織い所属しているのだからそう簡単にどうにかできそうなメンツではないのは否定しないが。
そういうわけで後顧の憂いというわけではないが、ミソロギア内の意思統一がなったので次のカミーユ隊に新たな指令を与えることとした。
「……これって問題ないのか?」
「問題ないだろう。別に違法ではないのだから」
「いや……これって……アナハイムの研究所だよな?」
「そうだな。アナハイムに提供している研究施設だ」
資料にちゃんと記載しているはずだが……うん、記載ミスもないな。
「それを襲うとなると本格的な敵対行動になるぞ」
そんなことか。
「これは非公式の研究施設だ。だから襲っても抗議を入れてきてもどうとでもなる。実際私達が襲われても抗議ができないように、な」
「言っている意味はわかるが……本当に大丈夫なのか」
「問題ない。後4年程度でMS格差が埋まるわけがないし、何より1度はこちらから攻勢を仕掛けておくべきだという判断だ」
「必要ない争いを生むだけじゃないのか」
「最近、アナハイム一派は私達を甘く見ているようだ。改めて武威を示せば襲撃が減る……かもしれないこともないような気がしないこともないようなあるような?」
「おい」
いや、襲撃が減ると資源獲得機会や戦闘経験を積む機会が減ってしまうのであまり減りすぎても困るのだ。
「正直に言えばMDを操作するのが面倒になってきたというのが本音だが——」
「おい」
「——もういい加減五月蝿いんだよ」
「何が、だ」
私の雰囲気が変わったことにカミーユは察して今まで以外の本命があることがわかったようだ。
「そこから度々思念が届く……助けて、痛い、苦しいという、な」
「じゃあ、ここは——」
「そう、そこはニュータイプ研究所……いや、人間が発しているとは思えないような思念も発していたことから考えると強化人間の研究を主にしているのだろうな」
「……そうか、わかった。行ってくる」
カミーユの手は強く握り締められていることが見て取れる。
フォウもロザミア・バダムも元は強化処置を受けていたのだから当然の反応だろう。
別に煽ったり焚き付けたりという意思があったわけではない。本当にただただ五月蝿くてそろそろ限界であったのが事実だ。
ただしおそらくだが、アナハイムが強化人間の研究に乗り出したのは私達のせいでだと予想される。
アナハイムは大手企業であることもあって、連邦同様にニュータイプなどという探すのにも教育するのにも手間がかかり、理解が及ばない存在にあまり興味がなく、研究自体はしていたが小規模であった。
しかし、私達がニュータイプだけで編成した部隊の強さを見せつけたことでアナハイムは興味を引いたのだろう。
ジオニック社やフラナガン機関を吸収合併しているアナハイムにはある程度データはあったが、あくまでデータであって、検体の数は少ないためにオールドタイプの強化処置を施すことにしたのだろうが実績がなく、効率の良い非合法な手段に出たのだろう。
言い方を変えれば非合法な手段に出るほどに焦っているとも言える。
それはそうだろうな。地球圏最大の軍事力(数であって質ではない)を保有しているにも関わらず、私達に負け続けている。
軍需産業を牛耳っているアナハイムにとっては苦い思いをしているため、その解消に動くのは自然なことだ。
……ああ、もしかすると1度の勝利でももぎ取ることができたならそれを喧伝して名誉挽回を……いや名誉か?汚名返上の方が正しいか……を図っての度重なる襲撃の可能性がある。
もしそうなら迷惑な話ではあるが、是非続けてほしいものだ。