第二百三十五話
ハマーンが帰り着いてそろそろ連絡が来るか、と思っていたら予想通り連絡があった。
しかし、その内容はあまり歓迎できるものではない。
どうやら過激派が動かないガトーに見切りをつけ、新たな旗頭を用意したようで、帰り着いたと思ったらそいつがそれなりの役職に座っていたそうだ。
そいつの名はフル・フロンタルというらしい。
直訳すると全裸……まぁ伝えたい意味はわかるが、もう少しどうにかならなかったのか。
その容姿や声、そしてMSパイロットとしての技量から『赤い彗星を継ぎし者』というこちらもなんとも言えないネーミングだ。
ただし、このネーミングには赤い彗星人気が未だに根強く、しかし連邦に寝返った(過激派主観)赤い彗星というところには思うところがあり、それを払拭する意図が含まれている。
しかし、容姿や声までそっくりとは……一瞬クローンか?と疑問に思ったが、遺伝子検査を行った結果は白、一応は別人であるらしい。もっとも保存されているシャアの遺伝子情報か全裸の遺伝子情報のどちらかを書き換えていないとは言い切れないのであてにはできないと言っていた。
ハマーンが連絡をよこしたのはシャアとの関連性などではなく、それに匹敵する操縦技量にあるようだ。
「一体どこにこんな隠し玉を用意していたのやら」
ハマーンすらも知らなかったのだから安直に考えれば最近まで取るに足らない程度であった……というわけではないだろう。
あまりデータが多くないが、ティターンズ戦での出撃データも存在している。
ただ、ハマーンとプル達の戦果が目立ち過ぎて目立たなかっただけで、ガトーの隊に次ぐ戦果を上げている……ことになっているが……さて、これも本当かどうか怪しい。
これだけの戦果をあげたなら功労賞でハマーンが直接顔を合わすこともあったはずだ。にも関わらず本人は覚えがないらしい。
作られた戦績の可能性が高いが……シミュレータでの成績は優秀で、模擬戦もガトーと互角とまではいかないが多少劣る、場合によっては勝ちを拾えるほどの腕前らしい。
私が本格的にではないにしろ強化を施したガトーと互角で戦えるのだから実力は間違いないだろう。まさか人殺しを嫌がる処女などというボケはないだろうしな。
「それだけの腕があるとプルシリーズでも少数では荷が重いか」
万が一を考えてのクーデター対策として護衛を増やしたのに厄介な相手が現れたな。
「早々に艦艇の製造と次期量産機の設計に取り掛かるか」
アナハイムの研究施設を襲撃したカミーユ隊から報告が来た。
特に被害もなく制圧に成功……まぁアナハイム一派が連邦の大部分を掌握している現状で襲撃されると想定しておらず、駐留部隊が少なかったようだから当然といえば当然か……しかし、3機ほど新しいMSが出てきたようだが瞬殺して鹵獲にも成功したみたいだ。
そのMSのデータも手に入っている。
正式名はジェガンという、連邦らしい特徴のないことが特徴な量産型MSといった感じだが拡張するゆとりを確保してオプションパーツで戦況に合わせた武装をするように設計されている。
汎用性に富んではいるが、正直言って面白みがないMSだな。これなら多少非効率でもZ系の機体の方がまだマシだろう。
些細なことはともかくとして、当初の計画通りに研究施設のある小惑星ごとこちらに向かってきているようだな。なっら事後申請だが連邦に正式に手続きをしておくか。
私達は非合法的な組織ではあるが一応手順は踏んでおいた方がトラブルは少なくなるからな。
アナハイムも申請しておけばこんなことにならずに済んだのに、な。
それと資源や設備が丸々回収できるいい機会だ。(というよりこれが本命)
「……これは酷いな」
検体のデータを送ってもらったのだが、それはもう酷い有様だ。
強化人間にも素質というものがある……が、これはどれもこれも塵を拾ってきたかのように外ればかりだ。
これは研究データも大したものでは……ほう、なるほど塵を宝石に変えることがテーマとしていたのか、これは私の早合点だったか。
私が今まで手がけた検体の中ではα、β、γが素質的には良くなかったが、これほどの塵でもなかった。
今となっては素質に恵まれた検体にばかり目を向けていたので、こういう古代の錬金術を彷彿とさせるような内容は眼中になく、少し新鮮な気分だ。
もっとも実験内容はやはり低次元であるために新鮮ではあってもデータとしては良いものはほとんどない。
「んー、これなら治療と強化を施して不死鳥の会に提供するか」
不死鳥の会が軍需産業に介入しようとしている現状でニュータイプのサンプルぐらいは提供しておかないと遅れは取り戻せないだろう。
サイコミュの技術は提供するつもりはないがな。