第二百四十一話
「シャア、そろそろアナハイムにアレン達にちょっかいを出すことを止めさせた方がいいんじゃないか。もしアレン達が本気で動き出したらどうするつもりだ」
「再三忠告、警告しているさ。だが、止めるつもりはないそうだ。もう月を消し飛ばしてもらえれば問題が少なくていいのだがな」
「冗談でもそういうことを口にするな。万が一アレンに聞かれて真に受けたらシャレにならないぞ」
「……そうだな。失言だった」
ここは宇宙ではなく、地球、しかも、エゥーゴの総帥であるクワトロ・バジーナの住む邸宅であるため、防諜は厳しい。しかし、アレンはニュータイプとして異常な……既にニュータイプを超越して人間の範疇であるのか不明だと思っているシャアとアムロはアレンに関して冗談さえ言うことさえ気を使わなければならないのだ。
実際、2人が危惧しているのはあながち間違いではなく、アレンがその気になれば、この2人の気配を知っているため、密会していることぐらいはすぐにわかり、大雑把にだがどういう話をしているのかぐらいは把握することができる。もっとも意識して行わなければそのようなことはないのだが。
「とは言っても、おそらくはアレンは今頃新しい玩具に興味津々だろうがな」
そう、ナナイ・ミゲルがアレンにサイコミュに関する新技術を話すことができたのはシャアがそのように根回しをしていたからなのだ。
「ああ、お前のニタ研の知り合いとか言っていたやつの研究内容だったか……本当に大丈夫なのか?俺は彼が作ったMSしか知らないが、それだけでも天才の領域を超えているのはわかるぞ」
アムロは以前見た、クィン・マンサに加え、最近アナハイムから提供されたキュベレイ・ストラティオティスの戦闘データを見て、化物と評した。
その化物を開発し、量産しているのがアレンとその仲間達という少数によるものであるのだから疑問を抱いても仕方ないだろう。
「大丈夫だ。ナナイは元々アレンの教え子で、その研究に関しても認めるほどのものだ」
「……その話のどこに安心する要素があるんだ。それに彼がまた新たになにかを作り出してしまえば今よりも手がつけられなくなるだろ!」
その意見はもっともだが、アレンとは気心の知れたという程ではないにしてもそれなりの時間を過ごしているシャアにとってはそこまで警戒していない。
「まぁアレンは争いなんて時間の無駄、そんなことをしているより研究を、という根っからの研究者だ。アナハイムを煩わしくは思っているだろうが新しい玩具でそれも軽減されただろうからしばらくは大丈夫なはずだ」
そして知り合いの知り合いでしかないアムロにとってはそれが正当な評価かどうか疑問に思ってしまうのは仕方ないことだ。
「……それでも気を逸らせず戦うことになったら?そもそもアナハイムが喧嘩をふっかけてる現状だぞ?」
「その時は——」
手元に持った酒の入ったグラスに口を付け——
「……ナタリー達と共にアレンの世話になるかな」
「おい?!」
「幸いアレンと私の関係はそこまでではないが、ハマーンとナタリーの関係は姉妹かそれ以上と言える。それに研究に協力すると言えば受け入れてくれそうだしな」
「シャア、本気か?!」
「もちろん冗談だ」
と応えたものの、半分は、な。と心で付け加える。
正直、シャアは辟易としていた。
死の商人と化しているアナハイム、魑魅魍魎の政治家、自分達は勝者だという驕りに増長する仲間(エゥーゴ)、未だにエリートであるという自負の消えないティターンズ……どれもこれも精神を削るに来るのでシャアは摩耗していた。
特に味方である者達の態度の変化には悩まされた。
死の商人は軍とは合せ鏡のようなもので仕方なく、政治家は今更であり、ティターンズは元々が敵であるのだからいいが、勝利には違いないが盤石には程遠い現状での仲間、戦友の態度の変化には頭を悩ませる毎日である。
無能な味方が1番の敵というが、それが体現され始めている。
唯一の癒やしである妻や娘だが、会えていないわけではないが共にいる時間が短く、そして敵が多いために気の抜けない生活はさすがのシャアでも疲れを感じていた。
アレン達との生活は大変なのは理解できているシャアだが、今の生活ほどの苦労は(特に精神面)ないだろうと思っている。
実際は精神疲労でニュータイプのレベルを上げる図るため、かなり疲弊するのだが知らないことのほうが幸せということは世には多々あるのだ。
もっともそれ以前にハマーンがシャアの頼みを受けて仲介するのか、仲介されたところでアレンがそれを受け入れるかは別問題だが。