第二百四十三話
とりあえずアンダーサイコミュはプルツー専用機であるキュベレイ・エスティシスを再設計して搭載することとした。
またプルツー贔屓か?!というプルシリーズの思念が飛んできたので——
「試験段階なのだが、それほどの熱意があるなら是非実験——」
言い終わる前に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。試作段階の品物はどんな副作用があるかわからないので嫌っているのだ。一応私が使ってみた結果では特にそのようなことはなかった……いや、どちらかというと反動や副作用が少なくなっているとすら言えたのだが……まぁ私の感想では安心できないのもわからないではないが。
文句を言っていたのは相変わらず若いナンバーばかりであり、献身さが足りない。
上位ナンバーは特に不満を抱いていない。彼女達は私への忠誠は揺ぐことはなく、私の判断にただ決定に従うのみだ。
もちろんプルツーが私の意向に背くわけもなく、むしろ誉れだと胸を張っている。
……そういえば、諺としては蜘蛛の子を散らすように、とよく聞くが、実際に見たことはないな。
そもそもコロニーという人工的な自然では虫類はほとんど存在せず、蜘蛛どころか蚊すらもお目にかかることはないのだから当然と言えば当然だが。ちなみに一年戦争で地球にいるジオン兵を苦しめたのは自然現象と蚊や蝿だったりする。
自然現象は地球で暮らしている者にとっても変わらないが、蚊や蝿は違う。
ジオン兵、特に地球降下作戦当時の兵達は既に宇宙で生まれ育った生粋のスペースノイドであったため、虫が大量に存在する……しかも、古代より疫病を流行らせていた蚊や蝿などは人間の周囲を好む。
最序盤は都市での攻防がほとんどで問題なかったが後半になれば郊外での戦闘が増え、野宿する機会も増える。その時には精神を病むほどの被害を被ったと聞いている。
話が随分と逸れたな。
そんなわけでプルツーのエスティシスに施すことになった。
『これは……凄いです。これで同じMSだなんて思えません』
「ああ、こちらから見ても同じような感想だ」
とりあえず、エスティシスにはやっつけ仕事ではあるが、アンダーサイコミュを施し、余ったスペースはそのままにしてウェイトを軽くさせただけのものであるが……想像以上に動きが良くなっている。
「それに……発光現象の兆しを感じるぞ。通常時より興奮状態であるとはいえ、あの程度で起こるはずはないのだが……これもアンダーサイコミュの効果か?」
「発光現象の兆し……計測器にはそんなものは……アレンさん、そんなものまでわかるんですか?」
「最初は特に気にしていなかったからわからなかったが、この発光現象を知覚した時から意識していたらいつの間にやらわかるようになっていた」
「相変わらずですねー」
我が事ながらそう思う。
最近、あまりにも己が感覚のみで研究をするので自分が研究者に向いていないのではないかと思う時があったりする。研究者ではなく、研究者のような何かに思えて仕方ない。
とはいえ、向いていようが向いてなかろうが結局は研究するのだが。
「ファンネルの操る数も増えてますねー。それに本体もファンネルも機動が以前よりも洗練されているように見えます。これは予想以上の成果ですよ」
「しばらくは観察して問題がなければすぐにでも量産……いや、私が使う分には問題がないのだからそのぐらいは生産しておくか」
「ただ、アンダーサイコミュは装甲でもある関係上、ユニット化することができず、簡単に取替が利かないのは難点ですね。それにアンダーサイコミュが損傷してしまえ操縦もできない状態になっちゃいますし」
確かに……となると、上位ナンバーにのみ配備することにするか。
差別化することで競争心と向上心を煽ることもできるだろうし一石二鳥だろう。
「MDに搭載するわけにはいかないが、MDを操作するのにも使えるかテストすべきだな」
「ですね。この結果だと期待できそうですね。そうなればMDの実戦配備も検討できますし、それによって戦力の拡張も容易になります」
MDならキュベレイシリーズでなければ多少荒い使い方をして撃破されようともプルシリーズを消耗することはなくなる。つまり未熟なプルシリーズでも戦力に、それこそジュドー達ですら遠慮なく戦力にすることができるようになるかもしれないということだ。