第二百四十四話
「これが……これがアレンが私のために作った艦か」
「よかったですね。ハマーン様」
「ああ」
嬉しさを隠さずにアレンが用意した戦艦を眺めている上機嫌なハマーンにイリアはホッとしていた。
ミソロギアに慰安旅行に出かけている間にタカ派が力を付け、いつの間にか多数派となってしまっている。
それに伴い、ネオ・ジオンの幹部に大きく変化が起こり、ハマーンやイリアですら知らない新顔が多く入ってきた。
良く言えば凝り固まった組織が解され、若返った。悪く言えば経験が少なく、現実が見えない理想を追いかける青臭い組織となってしまっていた。
「我らがネオ・ジオンの宰相閣下ともあろうお方が何処とも知れぬところから拾ってきた艦に搭ずるなど……」
(誰とも知らぬお前が言うと怒りも超えて滑稽だな)
タカ派がハマーンとイリアの動向を監視するために派遣された男、アンジェロ・ザウパーの言葉にハマーンは心の中で嘲笑う。
(監視であることを隠そうともしないこんな小僧をつけるとは……いや、それが狙いか?確かにこの無遠慮さのせいでアレンを援助するのがやり難くなったのは事実だけど)
このアンジェロという男が自身どころかミネバにすら忠を置いていないことをハマーンは知っていた。
(こいつの心はフル・フロンタルとかいう全裸に捧げられているからな。命令があればいつでもこちらを狙ってくる暗殺者がいるのは精神的に来る……今、良い訓練だ。という幻聴が聞こえた。幻聴だが間違いなく言ったな。うん、間違いない)
アレンの思念が届いたとかそういうことではないが、ハマーンの心情を知れば間違いなくその言葉を投げかけてくることは間違いない事実である。
良くも悪くもこういったことのアレンの思考は読みやすい。
(できれば計画的な暗殺にして欲しいな。それなら事前に察知することも難しくない)
何処かの怪物ニュータイプほどではないが、平凡なニュータイプ(言葉的に違和感が……)の中ではトップに位置するハマーンであれば殺意の前の段階である敵意ですら感じ取れるのだから未然に防ぐのは難しくない。
しかし、その敵意が殺意に変わるタイミングが、自分の目の前であった場合、状況次第によっては万が一もある。
(そういう意味では本当に助かるわ)
アレンが自分のために用意してくれた艦を見て、改めて機嫌が回復する。
女としては無骨過ぎる贈り物ではあるけどね。と少し思わなくもないが、艦をこんなに短時間で用意するのはネオ・ジオンでも簡単なことではないのでもちろん多大な感謝はしている。
そして、ハマーンと同様に待ち焦がれていたのは護衛任務についているプルシリーズだ。
日頃からマジックバイザーで顔を隠すか特殊マスクで変装して過ごし、価値観の違う者達と過ごすこと、周囲の目もあり姉妹同士で満足に会話することもしづらく、時にはよそ者でありながらハマーンの護衛という要職についていることで虐めや嫌がらせをされているプルシリーズはかなりのストレスが蓄積されていた。特に急激に数を増やして教育が完璧とはいえない下位ナンバーが酷い。
どれぐらい酷いかというとマジックバイザーの下では涙を浮かべるものまでいるぐらいである。
さあ、早速搭乗だ!と意気込んで向かっていたハマーン達であったが、思わぬ伏兵が存在していた。
それは——
「ハマーン、待っておったぞ」
「ミネバ様!なぜこちらに?!」
「アレンからハマーンへの贈り物なのであろう?ならばきっと変わった物だと想うのだ。なら是非私も見てみたい!」
ミネバは英才教育を受けているが原作ほどハマーンにやる気がないため、若干甘めの教育を施しているため、割と我儘で好奇心が旺盛であったりする。
「しかし、まだ臨検も済ませていませんので」
と、それとなく断る方向でハマーンは話を進める。
ミネバが乗るとなると手続きが面倒であり、何よりミネバ付きの親衛隊が臨検にしゃしゃり出てくる可能性がある。
「なに、気にするな。この2人以外は搭乗せんし、既に根回しも頼んでいる」
「……」
ハマーンはいつの間にかミネバが成長していることを実感した……が、その実感をこのようなことで知りたくはなかったと思うのだった。