第二百四十五話
「「ほう、これがアレンの作った船か」」
(知らない間に影まで来てるし)
何処からか現れた影ミネバ(アレンが用意した最初期のクローン)まで一緒に搭乗することになり、ハマーンとミネバ(真)の親衛隊とミネバ(影)の親衛隊が頭を抱える。
しかし、当の本人達はまるで他人事のように艦の中を見学している。
ちなみにイリアは頭を抱えている他の者達の代わりにWミネバの面倒を見ている。ハマーンの側近であるイリアは自然とWミネバと接する機会が多く、そして口数が少ないが生真面目もあって姉のように慕われて……いるようないないような。
「もっと質実剛健としたイメージがあったが思った以上に雅だな」
「そうなんだ。私も会ってみたかったな」
ミネバ(真)はアレンとあったことがあるが、ミネバ(影)は自身の生みの親でもあるアレンと今まであったことがないため羨ましそうだ。
ミネバ(影)がクローンであることは本人もミネバ(真)も既に知っているが、幼い頃から一緒に育ってきたので姉妹という認識でしかない。
「うむ、今度はネバと共に会いに行くとしよう」
「本当か、ミネ」
「両方が同時に外出できないことはお分かりですよね?」
Wミネバが不穏なことを言い始めたので堪えきれずハマーンがツッコミを入れる。
どちらかに何か、万が一の事故や病に遭った場合、それが替え玉ということになり、残った方が正規のミネバを務めることになることは本人達も知っている。にも関わらず2人揃って出かけるという発言は本人達の本音であり、いつまでも自分達を放置する周りの大人への迂遠なアプローチでもあった。
つまり、いつまでもくだらないことを悩んでないでとっとと相手しろ、である。
ミネとネバというのは察しの通り、Wミネバがお互いを呼ぶ時の愛称だ。ただし、本人達の気分次第で愛称を入れ替えるため、ずっと付きっきりである親衛隊や思念を感じ取るハマーンやイリアのようなニュータイプでもなければ見分けが全くつかないため、暗殺や誘拐の防止に支障はない。
ちなみに今はミネがミネバ(真)でネバがミネバ(影)である。
「それにしてもすごいな。このレリーフ、映像かと思うたが、まさか本当に彫られているのか。家にもあるがこれほど細やかで、美しいものは見たことがないぞ」
「ミネの言う通り、こんなの見たことがない……あ、これは薄い石の板に彫っているみたいだ。ほら、ここに1cmもない板に彫ってあるから要注意って書いてある」
もちろんレリーフはアレンが手ずから(正確には触手)彫り出したものだ。
もっともデザインはアレンが描いたものではなく、適当に他人のものを選んで彫っただけであったりする。手先は器用であってもデザインセンスはあまり褒められたものではないので致し方なし。
「ここがハマーンの部屋か、グワジンの私の私室より広いな」
「ハッ、恐れ多くもそのようで」
「それにこのベッド……よくわからないが色々付いているな」
睡眠学習装置、暗示機能、クリーニング機能、着せ替え機能、配膳(プロテイン入りレーション)機能、排尿機能、マッサージ機能、ランダム対G訓練機能(ベッドが高速で360度回転する)が全自動で行ってくれる優れもの(狂気)である。
「お、大浴場か。私達のものよりも小さいが艦で考えれば十分過ぎる広さだな」
「サウナも付いているし、岩盤浴……砂場?」
「陛下、これは砂風呂と呼ばれるものかと思われます」
「あ、本当だ。ここに書いてあるな。しかし砂で風呂??」
ジャグジーなどもあるがここにいる者達では当たり前の機能なので特に反応はない。