第二百四十六話
艦内を見学していくWミネバ率いるハマーン一行。
その中にはカラオケ(ただしプルシリーズは曲を知らないので使えない)、ボーリング場(ボールが軽く50kgオーバー、故にレーンも特殊素材)、ミニバイクやゴーカート(アレン手製、中身はお察し)、卓球にサッカー場、バレーボールコート、スケート場、ゴルフシミュレータ、バッティングセンター(世界最速とデッドボールもあり)、ゲーム筐体(という名の訓練機)、リアルシューティングゲームなどなど、ラウンド○ンのような品揃えである。
ただし、サッカーやバレーなどの広い空間を使う場合は仕切りを動かす必要がある。
「とりあえず娯楽を詰め込んでみた、という感じだな」
「アレンも忙しい身の上だから多少の雑さは目を瞑るべきだと思う。それに着工してからほとんど間もおかずにこれだけのものを作ったのだから十分褒められることだ」
とWミネバは真剣に評している……卓球をしながら。
もっともスポーツとしてではなく、遊んでいるだけなのでのんびりした速度で、たまに空振りしながら楽しくやっている姿に親衛隊もほっこりしている。
そしてその隣でガチでハマーンとイリアが超人卓球を繰り広げているのを見てドン引きしている。
Wミネバが、ぽん、ぽん、ぽん、と言った感じだが、ハマーン達は、カカカカカカカカカカカッ、というまるでマシンガンのような音を奏でている。
実のところ、ハマーンやイリア、護衛のプルシリーズの身体能力についてはWミネバ自身もその親衛隊も今まで知ることはなかった。
彼女等はMSが関係しない訓練を行う時は身内のみで行うことが多い。
それは自分達の身体能力が一般人どころか鍛えられた軍人、いや、それ専門に特化して鍛えられたアスリートをも上回っていることがあまり知られると要らぬ詮索、嫉妬、期待、不安を招くため、特別隠してはいないが、公開もしていない状態だ。
ちなみにハマーンとイリアが空気を読まずに本気で卓球をしている理由は、卓球台に付属されている機械が敗者に罰ゲームのせいである。
その罰ゲームが登録されている人物に合わせて発令される……そして設定したのがアレンであることを考えれば内容はまだ不明ではあるが、2人を恐れ慄かせ、本気にさせるには十分な事実だ。
ついでにいうと現在使われているボールは特別製で、ハマーン達がフルパワーで打ったとしても割れることはない。……念のために言っておくがボールはボールでもMAのボールではない。
それは30分ほど続いたがWミネバが飽きたことで終幕となった。
ただし、ハマーン達は決着がついておらず、中断したのだが、3日以内に再対決しなければ両者に罰ゲームを課せられることとなる。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「……………」
まだまだ元気なWミネバと親衛隊、そして疲れを見せているハマーンとイリアは居住艦を探索した。
艦橋と格納庫、サイコミュなどが搭載されている重要区画はプルシリーズと機械的に厳重なセキリティが敷かれ、Wミネバでも入ることはできなかった。
「ここが最後か……しかし、案内板ではここはただの倉庫のようだが?」
「ここだけ搭乗員が案内したのだからひょっとするとアレンのサプライズかもしれないな」
「なるほど、ネバ、なかなか名推理だ。その可能性が高いな!」
Wミネバはワクワク、アレンのことをあまり知らない親衛隊は警戒を、ハマーンとイリアは楽しみ半分、怖さ半分といった様相で最後の部屋に足を踏み入れる。
そこには人が1人入れるほどの箱が1つ置かれているだけであった。
「うむ、やはりネバが言ったようにサプライズプレゼントに違いないな」
「早速開けてみよう!」
「お待ち下さい」
そう言って割って入ったのはハマーンやイリア、親衛隊ではなく、同行していたプルシリーズであった。
今まで必要最低限の言葉しか発していなかったプルシリーズが声を掛けたことで親衛隊は反射的にWミネバを庇うように動く。
それに特に反応することなく、プルシリーズが3人、箱を取り囲むように手をつなぐ。
その行動を見て、Wミネバは期待が高まり、他の面々は不安と警戒が募る。
「これは——」
「……ッ」
「「おお?!」」
ハマーンとイリア、そしてWミネバがプルシリーズ3人の思念が高まっていくことを感じ、親衛隊も何が起こっているかわからないようだが、謎の圧力を感じ動揺している。
そして——バンッ!という音と共に箱が消し飛んだ。
「随分と遅い呼び出しだったな」
箱から出てきたのは——
「ア、アレン?!」