第二百四十七話
「随分連絡が遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「な、な、なんでアレンがここにいるのだ?!」
うむ、サプライズは成功したようで何よりだ。
「その疑問は——おや、そこにいるのはミネバと……例の娘(むすめ)か」
「久しぶりだな。アレン」
「久しぶりだな」
「は、初めまして!(お父さん)」
どうやら1番最初に生まれた娘は緊張しているようだ。
しかし、生みの親ではあるが、私とあった記憶などないはずで、親のような存在は用意されて育てられたはずだ。
だが、それでも生みの親というものはやはり大きい存在なようで、しっかりと心の声が聞こえた。
それは嬉しくもあるが、困ったことでもある。
私としても多少は何かしてやりたいという思いもなくはない。なにせプルシリーズの土台となった個体だ。
成長過程に携わっていなくてもそれぐらいはしてやりたいと思うぐらいには人間性を残しているつもりだ。
もっとも私は肉親と触れ合ったことなどないからどうすればいいか経験則は当てにならないが。
「覚えていないだろうが1度あっているぞ。……しかし、立派に育ったな」
「は、はいっ」
今、私がしてやれることは成長を祝う言葉を投げかけるぐらいだ。
そして、言葉の意味を理解できたのか、喜んでいるのがわかる。
……しかし、なぜここにミネバと娘がここにいるのだ?
「挨拶は済んだか、そろそろ私の疑問に答えてもらってもいいだろうか?」
おっと、蔑ろにされてハマーンの機嫌が急降下しているようだ。せっかくのサプライズで機嫌が悪くなられたら元も子もない。
「ふむ、それは……実はこの私は、私であって私ではないのだ」
「……まさかクローンの記憶移植に成功でもしたとでも?」
「残念ながらまだ実現できていないな。記憶というのはなんとも曖昧なもので自分自身で捏造することもあるそれを正確に移植するというのはなかなか難しい。脳をそのまま再現するという方法も考えたが——」
「じゃあ今、ここにいるアレンは何なのだ」
長い間取り組んでいる研究に触れられてついつい話を逸してしまったな。
記憶の移植ができたならプルシリーズの記憶を移植させることで更に短い期間で習熟が可能になるし何より教育課程を大きく省くことができるのだがな。
「その前にそっちの護衛は信頼できるのか」
ミネバ2人の護衛であり、この艦の中入ってきている以上はある程度信頼しているのだろうが、それはあくまでネオ・ジオンとしてであり、ここから先は私達のテリトリーの話である。
これ以上の話は私達にとって不利益となる。
ミネバ達に知られてもちゃんと言い聞かせれば漏れることはないだろう……そう、ちゃんと言い聞かせればいいだけなのだ。
「わかった。私達は出て遊んでおるぞ!」
どうやら私の発言で不穏な気配を振りまく護衛達に配慮してミネバは退出することを選んだようだ。(本当はアレンの不穏な気配に逃げたのだが)
ミネバとそれに賛同したのだろう娘も護衛の背を押して部屋から出ていくのを見送ると本題を切り出す。
「この私は簡単に言えば人型ファンネル、といったところかな」
「……ハ?」
「容姿はそっくりだろうが、これは間違いなく機械でできた体だ」
サイコミュの中継機を幾つか設置することで、このような通信が可能になったのだ。
「もっともこの状態は本体である私が集中状態でないとできないのであまり多用することはできないがな」
私がこちらに集中するということはミソロギア内の触手は全てストップするということ、つまり生産もストップするということである。
「それにこの体、実は歩くことも手を動かすことも触手を動かすこともできないのだ」
さすがにアンダーサイコミュが高性能と言っても、手足や触手を動かすなどの繊細な作業を行えるほどの情報処理能力はない。
もっとも強化人間型OSの手助けがあれば手足を動かす程度ならできなくはないだろうが、今回は用途が限られているため省略している。
元々本来の用途はサイコミュリンクシステムの対象外であるオールドタイプとのコミュニケーションをリスクを下げて行うためのもの……という表向きであり、本当はただの好奇心で1週間ほどで仕上げたものなのは秘密である。
「ということはアレンと定期的に会うことができるということか」
「まぁこの私で良ければ、だが」
「そうかそうか」
「良かったですね。ハマーン様」
それだけ喜んでもらえれば作ったかいがあるというものだ。
遠征組のプルシリーズも随分喜んでいたし、多少の時間を割くのは吝かではない。
ただ、私がこちらに集中している状態だと察知能力も低下してしまうためミソロギアの防衛能力やMDの活動ができないのであまり多くの時間は割けないのだが……これを行う場合、念入りに警戒してからにするとしよう。