第二百四十九話
「そういった機能として搭載したのだから当然だが……不思議な感覚だ」
今、私専用のキュベレイ・ストラティオティスの試乗をしている。
ミソロギア周辺の以前から比べると私達の手によって薄くなった暗礁宙域を急加速、急旋回、急上昇、急下降、急停止をあえて混じえて全力で駆けるが、あの不快なGが全く掛からないというのは不思議な感覚だ。
まるで旧式(Gの再現がされない)のシミュレータをしているようだ。
その成果は十分なもので、これならファンネルに頼り切ることはなく、通常戦闘ができるものだと確信させる。
「そうなるとこの機動性と運動性では些か不満があるな」
Gが掛からないとなると身体に負担が掛からずに戦闘をすることが可能となったのだから私の能力を生かすことができる。
キュベレイ・ストラティオティスは私が作り出したのだから悪い機体ではない。ここのところ1番使うMDなど比べるのも烏滸がましい。だが、それは通常のニュータイプならば、の話である。
「やはり完全については来れない」
思い描く機動とズレが多く生じることに溜息が漏れる。
いや、カミーユやプルシリーズの訓練にしか使う予定がないのだからこれでもいいのだ、と理性では納得している。
しかし、感情は、研究者としての魂が更に高みを目指したいと囁(ささや)く。
「私のMSなど不要……嗜好に溺れる前に実益が優先、戦艦の方が急務だ」
仮想敵として出てくるプルシリーズが操るファンネルを撃ち落としつつつぶやく。
以前考えていた私専用の戦艦の方がMSなどよりも優れているのだから、そちらを優先すべきだ……と自分自身に言い聞かせる。
……改めて考えるとサイズの関係で戦艦と言っているが……もしかして私1人で動かすということはMAに分類されるのか?そういえばミソロギアもやろうと思えば私1人で運用できるのだからあれもMA?
「まぁどうでもいいか」
33機の仮想敵から放たれる模擬専用低出力ビームを避けて順々にビーム砲で落としていく……やはり反応が悪い。仮想敵に当たりこそしたが半数は中心からズレている。
MDとは違い、ある程度イメージ通りに動くばかりに逆に加減が難しい。MDほど低性能ならばそれを忘れることはないがストラティオティスほどになると違和感があっても意識が逸れるとそれを忘れてしまう程度のものだ。
それに操縦方法がサイコミュ・コントローラーであることも1つの要因かもしれない。
サイコミュ・コントローラーは思念でMSを操縦することになる。しかしそのイメージがMSを超えていた場合、当然ながら対応できない。しかしイメージというのはパイロット自身が反射的に思い描くものであるため、加減が難しい……と少なくとも私は思う。プルシリーズからはそのような意見は上がってきてないので私だけかもしれないがな。
「やはり艦の方がいいな」
2度目となるがストラティオティスが悪いわけではないがMSというのは小型化していることもあって……ストラティオティスはMSの中では大型だが……本当の意味での最新技術を搭載しているわけではない。
例えば現行機では標準で備えられているマグネットコーティングではあるが、実のところ磁力調節機関を取り付ければ更に摩擦抵抗が減少させることができる。しかし、MSであるがゆえに磁力調節機関を搭載することができない。(常人にはそもそもそれほどの反応速度が必要ないということもある)
しかし、艦なら問題はある程度解決することができる。MSから比べると広大な領域があるのだから。特に私専用艦は乗組員が1人しかいない関係で生命維持装置が最小限で済むところも大きい。
「うん、やはり艦だな」
と言ってなんとか目を逸らし続ける。
「「「………………」」」
アレンの訓練という名の慣らし運転を見ていたプルシリーズは誰も口を開かない。
そして最初に開口したのはプルツーであった。
「さすが父様。私も頑張らなくては」
「だねー。パパってほとんどMSの訓練なんてしてないのにあれだもん。まだまだ私達は守られてるって感じだね」
プルツーの言葉にプルも追従する。
上位ナンバー達はアレンの役に立つということが使命であり、同時に大切な生みの親であるアレンを守りたいという思いが強く、その背中が遠いことを再認識した。
「あれでまだ全力ではないというのは本当に恐れ入る」
「考え事……してた」
「やはり父上は偉大だ」
上位ナンバーは次々賛辞を述べた。