第二百五十話
上位ナンバーとは反対に驚きで声が出てこないのは若いナンバーである。
アレンが偉い、それは共通認識としてあったのは間違いない。
しかし何度も言っているが、上位ナンバーと若いナンバーでは認識の違いがある。
若いナンバーにとって分かりやすく言うと生みの親にして無茶苦茶なことを押し付けて自分は好き勝手している上司というイメージだ。
それなのに実は仕事ができる上司だったという衝撃的な事実が発覚し、自分達の立場が大きく揺らぐことで心に不安が生じた。
「さて、慣らしも終わった。早速模擬戦をするとしようか。しかし、ただただ真剣にするというのも面白みに欠けるだろうとちょっとした遊び心としてこのようなものを用意した」
そう言ってアレンがホワイトボードを掲げる。
そこには——
・選んだら恥、勝っても恥[VERYEASY]そんな君でも私の娘には違いないよ?うん
・え?これ選ぶの?[EASY]……恥の上塗りにならなければいいな?
・妥当、つまらん[NORMAL]だが手加減はせん
・できる限り逃げてみな。ここは「地獄のミソロギア」だ[HARD]でねェと……ブギーマンに喰われるぞォ!?
・勇者よ、よく来たな[VERYHARD]勇気だけが友達だと心がけよ
・この難易度を選ぶ者[HELL]汝一切の望みを捨てよ
・これが私の[LUNATIC]全力全開!
煽り文句にイラッとしているプルシリーズがいるが、アレンの能力を知った今は口にすることはなかった。
プルシリーズへは説明しないが、読者の皆様方には難易度の説明をしよう。
上から順に、格闘(触手禁止)のみ、格闘(触手あり)のみ、ビーム砲の解禁、ファンネル類の解禁、MDの解禁、共鳴の解禁、アレンの全力全開(真)である。
「LUNATICを希望します!」
「私も!」
向上心が強いのか、それとも考えなしなのか、プルツーとプルが真っ先に最高難易度を選択する。
そんな2人に苦笑いを浮かべながらアレンは答えた。
「残念ながら最初の挑戦はHARDまでだ。それをクリアした者のみVERYHARD、そしてVERYHARDをクリアした強者のみがLUNATICに挑戦可能なのだ」
ちなみにこの制限には切実な理由がある。
VERYHARDではMDを投入することになっているが、最初からこれをやってしまうとプルシリーズにアレンの力を魅せつけるための『MSによる同条件の戦い』が成立しなくなってしまう。
もっともサイコクッションなど完全な同条件ではないのだが、それはアレンとプルシリーズの才能さでできた差なので気にするのは重箱の隅をつつくようなものだ。
そして希望者には希望通りの難易度を、悩んでなかなか決めれないプルシリーズには強制的にHARDとして模擬戦は始まった。
さすがに初回からVERYEASYやEASYを選ぶような軟弱な者はおらず、大体のプルシリーズはNORMALを選んでいて、そのほとんどは若いナンバーであったりする。
そしてまず始めたのはNORMALからだ。
「きゃー?!」
「ちょっ!!」
「……」(唖然としている)
「こっちは4機なのに?!」
多くは勘違いしていたようだが、1対1の戦いはVERYEASYとEASYのみであり、他の難易度では小隊対アレンとなっている。
ちなみにVERYEASYとEASYが1対1の理由はアレンが近接戦闘しかできない関係上、小隊単位だと決着に時間がかかるからである。
プルシリーズの教育、ひいては組織の崩壊を防ぐためとはいえ、アレンの時間は貴重なのだ。
「こんなものだろうな」
プルシリーズが操るストラティオティスを3分もせずに撃墜判定にし、初戦を終えてのアレンの感想はこの程度であった。
身体がGに耐えられないという最大の欠点を補えばファンネルを封じたところで、こうなるということはアレン自身わかっていたことだ。
ただし——
「ちっ、さすがに上位ナンバーが2人も入っていると辛いか」
次の模擬戦では手堅くNORMALを選択した上位ナンバーが2人も混ざっていた。