第二百五十六
「ようこそ、ミソロギアへ」
アレン直々にアイナ・サハリンとシロー・アマダを出迎えた。
ミソロギアと言っているが、正確には交易所である。
例えハマーンの紹介とは言え、信用できない存在にプルシリーズが多数いるミソロギアで会うことはない。
第三者にはわかりやすいようにミソロギアという名を交易所にも付けただけである。
「私はアイナ・サハリンです。よろしくおねがいします」
「シロー・アマダだ。よろしく頼む」
ハマーンから聞いたとおりにシロー・アマダの左足の膝から下がなくなっている。そして以前は宇宙にいたこともあって無重力に慣れているはずのシロー・アマダは現在はその身体の違いによって、不自由そうである。
(前もって聞いていたとはいえニュータイプではないのは残念だ)
挨拶はそこそこに、アレンは診察室に直接案内しようとするが——
「ここを見て回りたいのですが」
アイナがそう切り出した。
「なぜだ?」
「……私達は自由に動けなかったので、久しぶりに少しだけ自由にしたいと……」
「そうか?」
アレンはアイナの言葉に疑問を持つ。
心情自体は理解できるが、それならシローの治療を終わらせた後の方が不自由しないと思ったからだ。
アイナとシローは長い間熱帯地域の辺境に隠れ住んでいたことを考えれば少しぐらいは街(と言えるレベルになった交易所)を散策したくなるというものだ。
それに2人はここがアレン個人が所有していることはハマーンから聞いている。いくら治療してもらうからとそれだけで信用できないでいたのだ。
コロニーの個人所有……しかも交易所というおまけまで所有している相手に知人の知り合いというだけで任せてしまうのに心理的抵抗もあった……なにせ、今回のことに対価を支払っていないのだから。
タダで治療してもらうのだから信用しろという人もいるだろうが、タダより高いものはないという人もいるだろう。そして2人は後者であったというだけである。
特に何かわかるわけではないが交易所を歩くことで少しでもアレンを理解できるかもしれないとも思っている。
「いいだろう。私もあまり時間に余裕があるわけではないからメイン通りだけになるが」
「ありがとうございます」
「感謝する」
案内中はさすがのアレンも空気を読んで必要以上のことは話さず、名所を案内して回った。
不死鳥の会の出店で大きく進化し、ジャミトフを頼ってきた元ティターンズ将校によって管理された交易所はかなり発展していたので2人は久しぶりの街に心躍っていた。
ちなみにミソロギア内で1番充実しているのは少し前まではプルシリーズ需要で衣類関係であったが最近になって急に伸びて逆転した食品関連である。
元々不死鳥の会が地球の企業であることとサイド3との貿易の主要品目が地球産の食料であることが影響している。
この2つは人の生活を支える衣食住の内の2つであることもあって万民受けが良く、2人はウインドショッピングを楽しんだ。
ただし、手数料を取るだけの両替機とその利用者の多さとその利用者の雰囲気に2人の表情は引きつらせた。
「あ、あんなものを置いて、治安は大丈夫なのか」
違法な物であることはすぐにわかったし、その利用者もその筋の者であることもわかったが、ここが個人所有である時点である程度覚悟をしていたのでそちらは言及せずに自分達の身の安全を優先するような質問をするシロー。
「ここで犯罪を起こそうとする者はかなり少数だ。実際あれだけ並んでいても割り込み行為すらする気配がないだろう?」
「言われてみれば……」
暴力行為や詐欺行為などの悪意が実行されそうになった場合、アレンから警邏しているプルシリーズか元ティターンズ将校に伝えられて取り押さえられるか、もしくは直接触手で捕縛されるかのどちらかであり、そのことはミソロギア周辺で本格的な活動をする者達にとっては常識である。
後、一応入管する時にサインさせられる契約書にも書かれている内容であるのだが問題を起こすような人間は読んでいないことが多く——
「とはいえ、全員が全員というわけではないのは確かだな」
少し離れたところにいた男が突然懐から銃を取り出——そうとした瞬間には天井から触手が疾走して銃を切断し、ついでとばかりに手首を叩き折り、首を締めて落とす。
「このように安全は約束されているわけだから安心するが良い」
ちなみに本来なら懐から銃を出す前に殺気が危険領域に達した段階で行動を起こす前に捕縛されてしまうところをアレンは実力をわかりやすく示すためにいつもよりわざと見逃したのだ。
そして周りの反応が特別驚いた様子がないことからこれがいつものことであるとアイナ達に察しさせた。
「そういえば既にその障害を得てからしばらく経っていると聞いているが、なぜ治そうと思ったのだ」
「それは……子供ができたからこれまで以上に頑張らないといけないと思ったからだ」
アイナは今、妊娠していた。
「妊娠していることはわかっていたが、なるほど……なんだったら出産も私が面倒みてもいいが……まぁその話は後でいいか」