第二百五十七話
「さて、シロー・アマダの治療に関してだが……」
「はい」
「正直、どうするか悩んでいる」
「……やはり完全な治癒は難しいのですか、ハマーン様からは完全に足が元通りになると言われましたが無理ですよね」
隠れ住んでいたとはいえ、協力者……キキ・ロジータ(小説版ではなくてよかったな)とミケル・ニノリッチ(アレンが原作の流れに影響を与えていないためB・Bにフラレている)の尽力によって医者には掛かっていた。
しかし、それはあくまで一般市民レベル……いや、一般市民より低いレベルの医者にしか掛かっておらす、足を元通りにすることなど不可能だと告げられていた。
ただし、一般市民レベルではなく軍関係者などの特殊な医療施設なら元通りとはいかなくても高性能な義足ぐらいは用意できただろう。
ちなみにネオ・ジオンはそのあたりの……再生医療に関しては連邦より上回っていたりするが……それもアレンが過去にクローンの研究を認める代わりにクローン技術を応用した再生医療を提供したことによるものだ。
もっとも提供した技術は基礎中の基礎でしかなく、現在のアレンが保有するものから比べると天と地の差ほどある。
つまり——
「その程度のものを私が治せないわけがないだろう」
「「え?」」
「私が悩んでいるのは鋼鉄をも破る筋力を備えさせるか小型ミサイルを内蔵させるのか足に動力とローラーを付けて自動走行できるようにするのか……いっそ某ロボット映画の2に登場した液体金属で自在に変化するものでも目指すか?」
「「……」」
予想外のことに絶句して言葉が出ない夫婦のことは置き去りにしてアレンは更に続ける。
「ああ、小型ミサイルではなくビームの方がいいか?しかしさすがにそこまで小型化は……いや、そうかレーザーなら仕込むことが——」
「「普通の足にしてください(くれ)!」」
このまま放置しているとシローの足がとんでもないことになりそうだと予感して無料で治療してもらう側であるのに反射的に強い口調で言う。
「本当に?」
「本当に」
「お願いします」
凄く残念そうにアレンが確認するが、意見は翻ることはなかった。
「本当に?」
未練がましく再び確認するが、力強く頷かれて肩を落とす。
ハッ、とした思い出したかのように表情を明るくし——
「せめて自爆装置を——」
「なぜそれを認めると思う?!」
「踵にボタンを設置すればいつでも起動ができる安全設計だ」
「むしろ危険しかないぞ!!」
「さすがにこれは冗談だ。やってみたくはあるがな」
いくらマッドであるアレンではあるが、そこまで常識はずれではない。
(これはということはその前のは本気ってことよね……)
(やってみたいのか?!)
——ではない?
「しかし、現実的な話をするが、お前達は脱走兵なのだろう?なら万が一発見され、捕らえられてしまえば銃殺しかないだろう。ならばそれに備えて自衛手段として暗器の1つや100ぐらいは用意しておくべきだと思うが?」
「それは……」(100もあったら全身凶器だろ)
心ではツッコミを入れつつもその必要性をシローは感じた。
以前までなら自身が死ぬ程度であり、軍人であったシローにはそれぐらいの覚悟はできていた。しかし、現在は2人のかけがえのない家族ができた以上は簡単に死ぬわけにはいかない。
それはシローだけの思いではなく、アイナも同じ思い……いや、妊娠している母親なので父親よりもずっとその思いは強い。
もっともアレンはこの夫婦を心配しているのではなく、ただ単に道楽として改造を施したいので理屈を並べているだけである。ただし、間違った理屈ではないので強いカードである。
「それでは私の勧めは……やはり安定という意味ではレーザー銃を仕込むあたりかな。足そのものを飛ばすのも捨てがたいがその後回収することができなければ片足で動くことになり、逃げるのに不便だろうし……」
再び暴走を始めたアレンであったが、今度は夫婦が止めに入るのに躊躇してしまった。
「アレン、そのあたりにしておけ」
許可なく、診察室に入って止めるように言ってのは——
「ジャ、ジャミトフ・ハイマン?!」
「ふむ、私を知っているのかね」
と言っているが、最盛期では地球連邦を手中に収めたティターンズの総帥であるジャミトフを知らない人間はほぼいない。
しかし、この場合の驚きは別である。
シローは連邦の軍人であり、そしてティターンズの粛清対象はスペースノイドだけでなく、連邦兵にも向けられていたのだから、脱走兵であるシローが反応してしまうことも無理はない。
「ふふ、今の私はティターンズでも、ましてや連邦の者でもない。おぬし等がどのような存在なのかなど興味はないから安心すると良い」
(それよりもこんな物騒なものが有効と知れればプル達に仕込まぬとも限らんからな。なんとしても阻止しなくては)
ジャミトフはプルシリーズを検体としていることは妥協している。しかし、やはり受け入れられない部分もあるのだ。
肉体を人間の範疇で改造するのはいい。いや、レーザー銃を仕込む程度なら受け入れることができる。しかし、この先に行くつくであろうサイボーグのような人体を機械化することには受け入れられなかったのだ。主に孫の可愛さを守るために。
もちろん生命に関わることなら別であるが。