第二百六十話
シローとアイナの健康診断は終わり、胎児も含めて特に大きな問題はなく、すぐに四肢のスペアを移植……することはなかった。
「どうせなら違和感がないものに調整しよう」
というアレンがこだわり出したので、とりあえず義足を付けることとなる。
この義足は世に結構出回っているものではあるが、元々資金を稼ぐためにアレンが開発した物を一般企業でも作れるように下位互換化された物だ。
ちなみにこの下位互換義足でもスポーツカーが買えるぐらいの高価な物ではあるが、そこは産地直送であるため、お求めやすい価格となっている。(ミソロギアはSAN値直葬でガリガリ削られるので一般向けではない)
使い心地は言うに及ばず、自爆スイッチやファンネル化、レーザー、果てはTVリモコンまで内蔵して至(痛)れり尽くせりである。
そんなわけでシロー達はしばらく交易所に設置している、患者は基本VIPしか存在しないため内装は高級ホテルのスイートルームに匹敵する病棟に2人共入院して過ごすことになる。
アイナは生まれが生まれなので慣れたものだが、生まれも育ちも庶民であるシローはなんとも居辛そうにしていることをアレンは知っているが、特に問題なしと放置している。
「それにしても……アナハイムはしつこい奴らだな」
海賊という名のアナハイムに襲われるようになって1年以上が経っているにも関わらず、カミーユ隊や治安維持用として宇宙を漂うMDを襲い続けている。
そして、今、アレンの元にはまたカミーユ隊が襲われたという報が入ったのだ。
「練度の上昇とMS性能の向上が顕著に見られるな。私達で経験を積んでいるのだから当然ではあるが面倒だな」
未だにアレン達に戦死者は出ていないこと本気でことを構えないでいる理由なのだが、それを勘違いして本格的な争うつもりがない。ある種の腰抜けであると判断し、調子に乗ってテスト機やパイロットの育成のための試験相手として襲わせているのだ。
だが、経験、ノウハウを得るのはアナハイムだけではなく、アレン達も得ているので一向に差が縮まらないのだから何の意味があるのか、それは——
「連邦軍の中にアナハイムの子飼いの部隊ができたようだが、十中八九私達との戦いで生き残った者達で構成されているだろうな」
アナハイムが多少(彼らにとっては)無理してでも戦い続けたのは、自分達の部隊を連邦軍の中に生み出すことであった。
エゥーゴもアナハイムの子飼いではあるが、それでもやはり発足当時に築かれた『思想』の違いは大きい。
元々アナハイムは、そもそもティターンズを打倒する目的でエゥーゴを支援していたわけではない。本来の目的はMS産業のシェア獲得であり、エゥーゴをティターンズにぶつけることでノウハウを得、ティターンズから譲渡を引き出す予定だったのだ。
それがまさかのエゥーゴの勝利で終わった……ら良かったが、現状でいうと引き分け、しかもティターンズは独自MSの開発を進めている現状である。共同開発などをしているが逆に言えば独占できているとは言いづらい。
さて、本題だが、アナハイムが連邦に軍を作ろうとしたきっかけは……実のところネオ・ジオンの存在にあった。
アナハイムの本社がある月は一年戦争ではジオンの占領下となった。
戦争被害こそほとんどなかったが、実のところ武力制圧というものに恐怖を感じていたのだ。
スペースノイドの独立という旗を掲げながら、そこに住むスペースノイドを皆殺しにし、コロニーを落としという非道を行ったジオン。
ならば何の縁もない、いや、財布か金庫のような存在であるルナリアンに同じようなことをしないとは限らない。
結果的にはお互いが利用し、利用され、win-winの関係であったが『次』があった場合、同じ結果になるとは限らない。
つまり、アナハイムが目指しているのは——
「連邦の金で自分達の住処を守り、従う軍を用意するとは考えたな」
しかも、これに逆らえば、私兵ではなく、公で言えば連邦の部隊であるため、公務執行や反逆罪などで逮捕することができる。
実のところやっていることはティターンズとそう変わりがない。保守的か改革的かの違いはあるが国庫で好き勝手にしているという点では。
「MDの損耗と推進剤の消耗、私の時間の浪費が甚だしい……とりあえず、そろそろアナハイムには少し痛い目にあってもらうか」
数日後、アナハイムの軍需部門の上位5名が裸体で宇宙遊泳されているところが発見された。