第二百六十二話
シローの訓練(なぜかMSの操縦も)もアイナは大きくなるお腹とシローの頑張る姿をモニター越しで愛おしそうに眺めて平和な時が流れる……が、それはこの2人だけであった。
端的に言えば事件は起こった。
発生地はネオ・ジオン、サイド3の首都ムンゾのハマーン邸である。
「栄光あるザビ家を操る奸臣ハマーン!覚悟!!」
そのような声と共に男は懐から出した小型銃を発砲——しようとしたが護衛していたプルシリーズの触手によって銃を切断され、肘と膝を全て粉砕して触手から電流が流されて無力化された。
これは武断派の、その中にもいくつか派閥があり、ハマーン派、軍利権派、ザビ家派、そして売国奴であるアナハイム派や連邦派などが存在するが、今回はザビ家派が行なったもである。
それ自体は裏を調べ、単独犯であることが判明して早急に相応の報いを受けることとなった。
しかし問題は別にある。
正直な話、襲撃程度であれば国営放送でニュースとして流れ、マスコミがそれに対してコメントをする。
そしてそのコメント内容はザビ家、正確にはミネバ押しかハマーン押しで終わることが通例となっていた……だが、今回は違っていた。
7割のマスコミは通例通りであったが、残りの3割はハマーンにも非があるのではないかというものであったのだ。
その内容は——
『個人に肩入れして国益を損ねている』
『地球企業との蜜月』
『スペースノイドの独立のために戦う意思がないのではないか』
『ミネバ様を一般の子供と同じように接している』
『男顔負けの威風堂々な行かず後家』
『亡き父マハラジャ・カーンから受け継ぎし志に曇りか』
『親衛隊に身元不明の者を採用している』
『血税を己の私設艦のために費やされている』
『ハマーンの人気で婚期を遅らせている』
『踏んで欲しい女性有名人で2位との大差を付けて1位に輝く』
『政争相手が相次ぐ謎の死』
などというものだ。
ほとんどは真に受けることはなく、よくある陰謀説だと流された。
だが、世の中にはその陰謀説程度の怪しい情報を紳士(笑)に受け止める者も一定数存在し、それがアンチハマーン派の狙いである。
もっともやはり圧倒的少数であるし、本気で主流派に喧嘩を売るような気骨があるものは更に少数であるので大きな影響はない。
しかし、ハマーン政権の統制下でこのようなことが流れたこと自体は無視できない問題であった。
「誰が行かず後家だ!私はただ一途なだけだ!」
と当の本人は叫んだとか叫ばなかったとか。
ただ、9割は大事なところを素っ破抜かれているが本当の話がほとんどであるために対処も難しかった。
裏で糸を引いているのは死の商人ことアナハイム・エレクトロニクスである。
自分達の本拠地である月に連邦駐留部隊こと私設部隊ができたことで守りは十分と考えた一部の者がネオ・ジオンに謀略を仕掛け始めたのだ。
これにはネオ・ジオンを暴走させることで戦争を起こさせ、最近成長している不死鳥の会を叩き潰そうという狙いだ。
「全く、迷惑な話だ。私が赴任中に戦争なんぞさせるわけがないだろう」
「こんな中で戴冠などして大丈夫なのだろうか」
「ハマーンが責任放棄して逃げようとしているよ。ミネ」
「大丈夫です。フル・フロンタルとアンジェロ・ザウパーがいます」
「「それは戦争まっしぐら?!」」
もちろん冗談です。といったハマーンであったがどうしようかと頭を悩ませる。
自身の退任まで保たせることぐらいは難しくない。しかしさすがに長年共に居たミネバ達をこのテロリスト集団の中に置いていくことには抵抗があった。
「そうだ。いっそハマーンが退任するついでに私達を誘拐してミソロギアに逃げ込んで外宇宙に出るというのはどうだろう?」
「ミネ?!」
まさかのミネバ(本物)の裏切りにミネバ(影)は驚きの声を上げる。
ハマーンも本人達が望むならそれもいいかもしれないと思う。
(ミソロギアの戦力ならばネオ・ジオンの総戦力を相手にしたところで問題にならない。アレン、私……プルツーだけで全滅させるのは(時間と継戦能力の問題で)難しいが、受け止めるだけならさして苦にならないだろう。後は逃げの一手でどうにかなるが)
「本気で仰っていますか?」
「いや、さすがに冗談だ。ネバはともかく、私は逃げるわけにはいかん。私はミネバ・ラオ・ザビ。この血はここに残し、消えるならばここで消えるべき血なのだ」
「ミネ……」
「……ミネバ様、立派に成長されました。しかし私はこの国に命は掛けません……しかし、宰相としている間だけはミネバ様のために働かせていただきます」
「頼んだぞ。ハマーン」
「ハッ」
忠臣ではないハマーンがミネバ達にとって1番信頼できる存在というのはネオ・ジオンという国家はなんとも歪な国家である。
しかし、世の中とはそのようなものなのかもしれない。