第二百六十三話
永き忠臣ではないものの、儚き忠臣としてハマーンは動くことを決めた。
とりあえず武断派を粛清……なんてことをしてしまうと大きく戦力の低下を招くためできない——
「だが、売国奴に遠慮は論外だ」
今までは実害がなかったので把握しつつも放置していた。しかし、ついに実害が発生したので切り捨てることを決断した。
ハマーンをディスったメディア自体を裁くとアナハイムの思う壺であるし、そもそもほぼ嘘は報じていないのだから罰するのは体裁が悪い。
「というわけでお前達にはこいつらを始末して欲しい」
「えー」
「必要以上の仕事したくなーい」
「パパのためならいいんだけどねー。ハマーンのためって言われるとー」
「ちょっと」
「「ねー?」」
プルシリーズの反応は芳しくないものだった。
主な原因は急にプルシリーズを増産したために教育が行き届いていないか付け焼き刃であることである。
副因としてはハマーンの暗殺未遂は警備隊の1人であったこともあり、警備隊の信用が落ちて親衛隊の、特に信用の厚い(信頼度は薄い)プルシリーズを増員したのだがその増員は居住艦の整備や存在の秘匿によるコミュニケーションの弊害、休日の減少などプルシリーズには負担となることが多くなっているのだ。
それに怠慢はよろしくないが、だからといって常時疲労状態であるのは安全なミソロギア内でもない限り好ましくないのだ。
しかしハマーンは諦めない。というかこれぐらいは予想の範疇である。
「無論報酬は用意している。イリア」
「はい」
そういってイリアが運んできたのは——
「おお?」
「綺麗」
「びゅーてぃふぉ」
「わんだふぉ」
「私が特別に用意した勲章だ。これは、ここにある『5個』しかないものだ」
眉が、耳が、頬が、口が、ピクピクッと動くプルシリーズを見てハマーンは勝利を確信する。
以前から言っている通り、プルシリーズはクローンであるために個性を主張したがる傾向が強い(中には例外もいる)ことで『○○限定』などの希少性に一般人よりも弱い。
しかも、ミソロギアにあるような大量生産されたデザインではなく、御用達のデザイナーによって描かれ、職人の手によって造られたそれは宝石よりも輝くものを発している。
「これは後で追加されない?」
とはいえ、自身の個性に関わることなのでそれが本当に希少なのかということへのこだわりも強い。
いつまで経ってもなくならない初回限定盤や早期購入特典、限定品という名の在庫処分はプルシリーズが1番警戒しているところである。
「この名前の勲章はこれかも予定しているがこのデザインはこれだけだ」
「むぅ」
「んー」
どうやら名前が同じ勲章が後にも追加されると聞いて若干興味が薄れたようだ。
だが、次の言葉で流れが変わる。
「この勲章の名前はスミス勲章と名付ける」
「スミスって……」
「表向きはスミス……つまり鍛冶師が金属を精錬するように、国を精錬するという意味で名付けたが本当は……」
「アレンパッパース(ギリシャ語のお父さん)の姓だね!!」
「その通りだ。無論、本人の許可も取っている」
プルシリーズから、おお〜、と歓声が上がる。
「ついでにいうとこのリストに載っている対象者を多く始末した上位5名に勲章を送る予——」
全てを言い終わる前にリストを奪い取り、競うかのように……いや、競って部屋から去っていくプルシリーズに溜息を漏らすハマーンだが、期待通りに話が進んだと納得する。