第二百六十四話
「心境の変化でここまで方針を変えられるのは王権のメリットでありデメリットだな」
中央集権の極地である王権……ハマーンは宰相だが、君主が幼いので目を瞑る……は、やはり意思決定が早い。
アナハイム派は次々と変死を遂げたことで最初こそ騒然としていたようだが、アナハイム派というのは他の派閥にも把握されていたようで被害者の共通点を探るとすぐにそのことが判明して混乱はしたものの派閥同士の抗争やこれを理由にクーデターなどを起こそうという機運は立たなかった。
更にハマーンは自身の暗殺未遂とこの暗殺騒動を利用して治安の悪化を理由として警備部の増員を指示した。
そしてその警備部に過激派を詰め込んで常備軍の勢力図を穏健派と中立派に偏らせた。
本来なら警備部というのは一般人が聞けば要人警護や重要施設の警備など、警備員のようなもので一般的な軍人よりも下位であると思う者もいるかもしれないが、任務は同じでもその重要性が違う上に『その重要な情報』を得るというアドバンテージは図り知れず、席を過激派に譲るのは明らかに悪手なのだが、この騒動が終わりほとぼりが冷めたあたりで経費削減として半数以上をリストラ……正確に言えば警察に転属させ、窓際に追いやるつもりでいるらしい。
なかなかあくどいやり方だな。さすがアクシズという組織(視点を変えるとテロリスト)をネオ・ジオンという国にまで成り上がらせ、それを連邦の内乱が終わった後も維持してきた手腕は伊達ではないということだ。
「しかし、初期プルも随分と成長したな」
ミネバが改めて決意表明したことでミネバの影武者として生まれた初期プルもミネバと共に最後まで歩もうと決めたとアレン人形で定期連絡の際に聞いた。
もっともミネバ達が死んでもプルシリーズが存在すれば遺伝子的にはザビ家は滅びぬのだが、そのようなことが世に出ることはまずないだろう。せいぜいが私が研究しているクローンに関して漏れることから憶測が出るだろうが……いや、それを理由に攻めてくることもありえるか、事前に対策を立てておく必要があるな。
「それにしてもハマーンはよほど鬱憤が溜まっていたようだな」
私と話をして多少は軽減できていただろうが、やはり根本が解決しなければストレスは増す一方でついに爆発したのがこの騒動……とはまた別の話があるのだ。
実は先日、ネオ・ジオンが武威を示すためという名目で大規模な模擬戦が行われたのだ。
ここまで話すと察する者は察することができるだろう。
ハマーンもその模擬戦に参加したのだ。指揮官として、ではなく、1小隊(MS3機)で。
相手は過激派が揃えた精鋭1中隊(MS36機)、しかもガッライの偽造品であるギラ・ドーガ、それのバリエーション機、そして明らかにバリエーション機とは違う様相の特殊機体……しかもハマーンすらも知らない機体が2機存在していた。
「まぁ特に意外性があったわけではないがな」
先にその機体のネタバラシをしてしまえば、ただのギラ・ドーガをニュータイプ仕様にしただけの機体だった。
ギラ・ドーガを一回り大きい程度でサイコミュとファンネル、そして高出力の大型ビームライフルに腹部には拡散ビーム砲を搭載していたあたりは褒めるに値する。だが、ニュータイプにとって肝心の運動性や機動性などがパイロットの限界値まで到達していないにも関わらずそれを下回る性能にするなどなんのためのサイコミュなのか……まぁ今までのMSの中では幾分かマシな部類であるから努力は認めんでもないがな。(ちなみにこの機体、原作で言うところのギラ・ドーガ サイコミュ試験タイプである)
「結果は最初からわかってましたしねー」
「そうだな。ハマーンと私のクィン・マンサ……しかも更に手を加えたクィン・マンサが揃って負けるはずがない」
最初の一斉射で5機が落ち、次に3機、その次で3機が落ちた。それでも25機と圧倒的な数だがハマーンの方にも後2機、プルシリーズがついている……のは実は撮影係で戦闘に関わることは一切なく、ひたすら躱して撮影を続けるのみが任務だ。ちなみに相手には伝えていないので完全に舐めプレイにしか見えないあたり意地が悪い。
そして相手がIフィールドを破れるほどの距離に近づいてきた時には既に15機まで数を減らしていた。
ついでに言えばクィン・マンサは実弾(模擬弾)は全てファンネルで落とし、ビームはIフィールドで無効判定で意味をなさないため開始位置から微動だにしていない。
「やはり出力の向上は大事だな。遠距離から攻撃を一方的に仕掛けられるのはアドバンテージだな」
多少無理して改良したかいがあるというものだ。
ただ、せっかくサイコミュがアンダーサイコミュによって小型化できたというのにクィン・マンサそのもののサイズは小型化できなかったがな。
キュベレイシリーズのビームの出力を更に上げることも検討するか……サイズを大きくしてみるか?
「あ、あのニュータイプ仕様のギラ・ドーガ、2機共落ちちゃいましたね」
「まぁ見るからにそちらは本命ではないようだからな」
「ですね。明らかに動きが違うのはこちらの赤いのと紫のですから」
「ああ、そうだな」
もらっているデータではこの2機に乗るのはフル・フロンタルとアンジェロ・ザウパーの2人だという話だが……見せてもらおうか、ネオ・ジオンのエースの力というものを。