第二百六十五話
「まとめて消し飛べ!!」
さすがにフル・フロンタルとアンジェロ・ザウパーの2人とその他大勢を相手にするには分が悪いと判断したハマーンは先程までの精度を高めた攻撃から距離も近づいたこともあってある程度狙いは大雑把ながら数で攻める形に変更する。
その弾幕で8機が落ち、3機が中破する。
決戦兵器の名は伊達ではない。
しかし——
「やはりそのあたりの雑兵とは違うか、全裸と狂信者!!」
その弾幕を回避して更に間合いを詰める、2人を出迎えるようにクィン・マンサの巨大な身体が動き出す。
今までは前哨戦、クィン・マンサの性能十全と発揮させたが、それはあくまで機体性能を見せたに過ぎない。(クィン・マンサを固定させた状態なら割と操縦できるプルシリーズはいる)
これからはクィン・マンサの性能とハマーンの技量が掛け合わされる。
「ファンネルッ!」
今まで砲台と化していたファンネルはエネルギーと推進剤補給のために回収し、代わりにファンネルを射出する。
その動きを見たフル・フロンタル達は驚きの声をあげる。
「これがファンネルだと?我々が使っているものとは別物ではないか?!」
アンジェロがそう言うのも無理はなかった。
クィン・マンサが唯一実戦投入されたティターンズとの戦いは目撃情報こそ多いが戦闘データ自体は宰相、当時も現在も実質的組織のトップの戦闘データであり、アレンがハマーンのために製造したMSである。
ハマーンも幹部にとっても重要な国家機密扱いで軍の幹部すらも閲覧することすら難しい管理がなされている。そんなものを過激派が入手できるはずもない。
それに現在のクィン・マンサとティターンズを相手にした時のクィン・マンサとではサイコミュは大幅に性能が強化されている。
とはいえ、クィン・マンサの火力とファンネルが搭載されていることは多く知られているので仮想敵としてニュータイプ研究所の協力でオールレンジ攻撃対策を取り組んできた。しかし、それは何の役にも立たないものであった。
ニュータイプ研究所が提供したファンネルはミソロギアで使われているものに大きく性能が劣る。その性能だけであればカミーユ専用機であるイータに搭載しているインコムと同程度である。
「生き物のようだな。我々が相手をしていたファンネルは出来の悪いおもちゃだ。これがあの機体……そしてハマーン・カーンの力か」
フル・フロンタルは赤い彗星と並ぶと言われているだけあってファンネルの全方位から繰り出されるビームを回避して反撃を行うほどの余裕があるのだが、その反撃が当たる気配はない。
その間に周りのまた数を減らし、とうとうフル・フロンタル達は5機まで数を減らした。
「ふっ、その程度か」
「なめてもらっては困るな!アンジェロ」
「合わせます!」
ニュータイプ研究所の協力があったということはもちろんファンネルの弱点も把握している。
いくら優れたニュータイプだとしても人間であることには変わらず、同時に多数の現象に対応しようとすればファンネルの操作が鈍くなったり、機体本体の操作が疎かになったり、サイコミュの副作用でパイロット自身に支障を来たしたりする。
それはハマーンでも変わりはしない……が——
「残念ながらいくらエース級が2人掛かりとはいえ、この程度で音を上げていてはアレンに失望されてしまう」
その弱点が通常のニュータイプなどと比べるとその弱点は小さくなっている。
アンジェロ・ザウパーがニュータイプの強みである鋭い洞察力と察知能力からくる射撃能力、回避能力、ファンネルの操作する集中力を乱すために近接戦闘を仕掛け、フル・フロンタルはクィン・マンサが相手であることを想定してのロケット・ランチャーやマシンガンで援護する。それが事前の打ち合わせで決めており、そして今はそれを現実とした。
「わざわざ近寄ってくれるとはな!その傲慢、自らの誇りを汚すぞ!!」
アンジェロ・ザウパーはビーム・ソード・アックスをソード形態で斬りかかり、ハマーンもそれを迎え撃つように大型ビーム・サーベルで応戦。
お互いのビームが(正確にはビームをサーベルという形を整えるミノフスキー粒子が)接触して火花を散らして拮抗……は一瞬で、そもそも機体の出力、ビーム・サーベル自体の出力の差によって押し負ける。もちろん負けたのはカスタム機ではあっても所詮量産機であるアンジェロ・ザウパーのギラ・ドーガだ。
そして当然アンジェロ・ザウパーもそのようなことは百も承知で、せっかく詰めた間合いを捨て去り、後ろへ下がる。その代わりにフル・フロンタルが最大火力のロケット・ランチャーを放つ。
「そこはマシンガンの方が正解だ……むっ」
ロケット・ランチャーの弾をファンネルで撃ち落とした上でアンジェロ・ザウパーが引いた方向に胸部からメガ粒子砲を放つと爆発が発生する。
「そちらは囮でこのクラッカーが本命か……そして——」
「そう、次は私が相手だ」
入れ替わるかのようにフル・フロンタルがビーム・ソード・アックスでハマーンに襲いかかる。
本命とは言ったがその程度でどうにかなるとは思っておらず、集中力を削るべく間断なく攻め立てる。
「シャアの代替品の分際でいい動きをする。しかし良いのか?そのような悠長なことしていては……ほら、とうとうお前達だけになったぞ」
2人を相手している間に残敵をファンネルで叩き落とすことに成功したハマーンは少し肩から力が抜けた。
さすがにこの2人を相手しながら他の相手をするのはハマーンでも難しいので早々にこの形にできたことに安心したのだ。
もっとも安心した、肩から力が抜けたからと言って手を休めるなどということはなく——
「ちっ、ここまで差があるというのか?!」
フル・フロンタルの攻撃は全て躱し、逆にハマーンの攻撃に反応しきれずに掠ってしまい装甲がいくらか溶けている。
しかも——
「なぜ近接戦闘をしながらこの精度でファンネルを操作することができるのだ?!」
アンジェロ・ザウパーはフル・フロンタルのフォローに動く……はずであったが、それが今の所叶っていない。
もともとこの作戦は他の兵士のことは考慮せず、フル・フロンタルとアンジェロ・ザウパー2人のみで行う予定であったので他が全滅すること自体は許容できた。
しかし、近接戦闘を行いながらファンネルを操作することは容易なことではない。
だからこそ、ミソロギアの基本戦術はファンネルの砲台化による面攻撃としているのだ。
近接戦闘を行いながらファンネルを操作する技能はミソロギア内でも上位ナンバーに限られ、しかもエース級を2人も相手しながらとなるとニュータイプのパイオニアであるミソロギアでも数が限られている。
ハマーンはその数少ない存在である。
にも関わらず、アンジェロ・ザウパーは6基のファンネルを相手にすることで手一杯となり、フル・フロンタルを援護することも叶わないでいた。
もしこれが実戦であるなら己の命に代えても崇拝しているフル・フロンタルを何が何でも援護しただろうが、これはあくまで模擬戦であり、武断派の武威を示す場所にして予算が大きく関わる重要な場面で迂闊な行動を取ることができない。
……もっとも、既に2人以外が全滅した段階でどの程度の面目が保たれるのかは疑問ではあるが。
ちなみにフル・フロンタルがギラ・ドーガサイコミュ試験タイプに乗らなかったのは単純に反応速度が良くても追従性が悪かったためである。