第二百六十七話
「なんだこの失態は!!」
「精鋭を集めた中隊が小隊……いや、あの小娘1人負けるだと?!ふざけるな!我々がどれだけ貴様らに金と時間を費やしたと思っている!」
「これはマズイぞ。武断派として拡大してきた我々が肝心な武で負けては面目が丸つぶれだ!」
「然り然り、既に結構な数がハマーン派に流れておるぞ」
これはネオ・ジオン最大派閥であり、先日ハマーン1人にボコボコのギッタンギッタンやられた武断派の密会である。
「それにしてもあの小娘、一体なぜいきなりやる気を出したのだ。今までも手を抜いておったわけではないがここまで本気で動くことはなかったではないか」
これは模擬戦のことだけを指しているのではなく、政治活動やネオ・ジオンの方針などのことを含めたことである。
「然り然り、ネオ・ジオン結束当初こそ精力的に活動していたが基盤が出来上がると勢いが削がれていったからのぉ。当時はあやつの独壇場であったというのに……」
その疑問は当時のネオ・ジオンである一定以上の階級を任されている者が誰しもが思っていたことである。
真実は建国、安定させたところでハマーンの必須成分であるビタミン・アレンが尽き、ネオ・ジオンがあまりにも戦雲が立ち上っていたことにやる気が萎えただけである。
現在は立つ鳥跡を濁さずの精神でお掃除中なのだが、このことを知るのはアレン達とハマーン、そしてミネバ達のみであるため他の者達が戸惑うのも仕方ないのだ。
「あの小娘が活発に動くようになったのは……あの船が来てからか」
「となるとやはりあいつか」
「ああ、小娘の指導者、アレン・スミス……あの小僧以外考えられまい」
「忌々しいやつだ。ニュータイプの研究をするのならそれだけしておればよいものを、あやつの開発するMSの完成度が高すぎて新しいMSの開発も一苦労だ」
「知っておるか、今の我が国の先進医療の3割があやつの特許なんじゃぞ」(体験済み)
「何?!それでは国益が流出しているということではないか?!」(体験済み)
「おのれ、どこまでも邪魔しおって……」(体験済み)
「……いっそ攻め滅ぼしてしまうか?」
「「「え、無理」」」
先程までは勢いはどこへやら、意外と冷静な武断派幹部達だった。
「あのクィン・マンサの量産型のようなものが20機以上を戦力として保有しておると聞いておるぞ」
「1機が小娘の半分のスペックだったとして18機相当(で倒せない)が20だったとして360機相当?……阿呆か、最盛期のジオン公国ですら1戦でそのような消耗しては国が傾くわ!」
「それに今回この模擬戦の映像は我々にも回され、しかも機密となっておったティターンズとの戦いの情報まで開示してきたのじゃ。次世代機に自信があるということじゃろうて」
「…………そこのところどうなのだ。フロンタル」
フル・フロンタルは武断派の代表として表向きはなっているが、実際のところは祭り上げられた代表であり、実際の権力を握っているのはこの場にいる幹部達である。
「信念的には負けるつもりはありませんが、現実的に言えば勝利したところで意味がない戦いかと」
模擬戦は所詮模擬戦、絶対無敵などという奇跡は存在せず、ハマーンも1発の銃弾で倒すことも可能性があるのだ。
(その運を引き寄せるのに一体どれだけの犠牲と奇跡が必要になるか……さすがにハマーンのような存在が20人以上もいるとは考えたくはないが……)
実際はハマーンをも凌ぐ存在が1人と匹敵する存在が6人ほど(最近アレンに絞られてハマーンはプルシリーズの中で上位となった)がいることを知らないのはその脅威を知らずに幸せなのかこのような無駄な時間を浪費する不幸なのか。
「やはり現実的ではないか、そもそも軍を動かそうにも小娘が邪魔をしてくるのは間違いない。そうなれば内乱となり地球の塵芥共の利とするだけか」
「ハマーンが……いや、せめてあの機体がなければクーデターもそう難しくないのだが」
「……とりあえず、新たに我らの力を示す方法を考えねばならんな」
「しかし、そのようなことを小娘が許すか?このように大きく動いたのは我々に対する牽制であろう」
「だからと言って黙っておっては我々の勢力は衰えるばかりではないか」
(それにしても……あの力……凄まじかった。できれば伴侶として迎えたいほどに……)