第二百六十八話
「今回の模擬戦の教訓を活かし、新しいファンネルを思いついたので作ってみた」
「これがそうですか……大きいですね。それに砲身が長いですし……ファンネル(漏斗)というよりドロッパー(スポイト)ですね」
「このファンネルは従来のファンネルがオールレンジ攻撃を目的としていたのに対してロングレンジ攻撃を目的……というのは以前にもあったがそれを更にビームを高出力化して特化させたものだ。その代償として機動性を犠牲にしてしまったが……イメージとしては固定砲台だな」
耐ビームコーティング技術の発展によって既存のファンネルでは有効射程が短くなっており、元々ロングレンジ運用で使っていたファンネルはあくまで改造でしかなく、改造できる余地が限られていた。
それではこれからの戦場では活用方法が限られてしまう。
通常の軍であれば、決定打としてなりづらい打撃力、ニュータイプという特殊な才能の有無、パイロットの集中力を欠くと使えないなどの面からして補助兵装か廃案となっても不思議ではない流れだ。
私達としてはその流れになっても問題ないが、私達自身が乗ってしまうわけにはいかない。
「しかし、これほど大きいとMSに収めるのは無理があるのでは?」
「MSには搭載させずに専用コンテナを用意する。簡単に言えばマザーファンネルの独立大型版と言ったところか」
「つまり開幕の砲撃支援のような役割ですね。でしたらファンネルではなく、インコムでも良かったかもしれませんよ?インコムならファンネルよりも多く操作ができますし、キュベレイ・アルヒ(訓練機のこと)にも任せることができますから数は更に増やせますよ」
ふむ、ファンネルの欠点である共有化ができないのもインコムなら再接続で補えるか、開幕はスタメンのプルシリーズ、戦線が近づけばベンチのプルシリーズが使う、か。
「確かにそれがいいな。ついでに名前もスミレの案でドロッパーとするか」
使用用途が違い過ぎるので同一の名前となるといざという時に連絡ミスが起こる可能性も考えられる。そんなことで戦死者など出るのは間抜け過ぎる。
というか私自身もドロッパーにしか見えなくなったのでな。
「でもこれって防衛兵器ですよね?用途もそうですし、このサイズ(全長6m)を複数基収めるコンテナとなるとさすがに狙われますし……」
「まぁ攻撃を仕掛けるなら私がその気になれば100%奇襲が成功するのだから問題ないだろう」
「それもそうですね……ところでハマーン様、大丈夫なんですか?」
「大丈夫かとは?」
「いえ、先日のことで罰を与えるって……」
「ああ、それは今はなにもしていないから大丈夫だ」
「え?この前はすぐに始めるって……」
「始めてはいるぞ」
「?よくわからないんですけど」
「だから何もしていないんだ」
「?」
「私は返信も、連絡も、アレン人形も、もちろん気配も探っていない。つまり、本当になにもしていない」
「……まさか」
「ああ、そういえば唯一したことがあったな」
「え?」
「着信拒否」
「完全な放置プレイ?!」