第二百六十九話
「アレン、アレン……アレン成分が足りないっ!」
「ハマーン様、仕事」
既に何度目かわからない叫びにため息1つ漏らしてツッコミを入れるイリア。
しかし、アレン成分が足りないハマーンにそんな言葉は届かない。
「なんで私の通信には出てくれないのよ?!プル達の通信には出るのに!!」
「通信妨害」
「イリア!自分でも信じてないことを言わないの!それに今までは1日1回はアレン人形で話してくれてたのにここのところ無反応なのよ!!」
「研究に没頭」
「…………それはないとは言えないけど!!でも明らかに私、避けられてる!!」
再びイリアはため息を漏らす。
(十中八九ペナリティ)
アレンへの依存度が低いイリアはアレンの意図を正しく理解し、これがまだ序の口であり、この後に本格的な修羅場が待っていることもわかっている。
(早く、仕事を終わらしておかないと、後で大変)
ちなみにこれも何度もハマーンに訴えているし、そのたびに一時的に真面目に仕事をするがものの数分で今のように禁断症状が出てしまうのだ。
アレン成分には中毒性があるようなので用法用量を守ろう。取り扱いを間違えると地球が消える可能性あり。副作用で(ストレスで)頭痛、(ストレスで)胃酸過多で穴が開く、(ストレスで)幻覚が見える、そして最終的にそれを治すという大義を片手に改造されるのでご注意ください。
「アレン、アレン……ああ、なぜあなたはアレンなの」
「ハマーン様……実は余裕?……壊れた?」
「そうよ。私がこんなことになっているのは全てあの馬鹿達(武断派)のせいなんだから責任をとってもらおうそうしよう。ちょっと滅ぼしてくる」
「ハマーン様ご乱心、であえであえー」
すごい棒読みなイリアの声に、またー?という表情で現れたプルシリーズは流れるような動きでハマーンを取り押さえる……10人がかりで。
「ちょっと!私は猛獣か何かなの?!こんなに大勢で抑えなくても!」
「いえ、2、3人で取り押さえるのは時間がかかるので時間の無駄だと思い至ったので物量で押し切ることにしました」
「ちなみにこれ、アレンダディが教えてくれたんだよ」
「なんであんた達は連絡できてるのよ?!?!?!」
と叫んで暴れだすハマーンを必死に抑えこむプルシリーズ。
「それは……信頼の証?」
「家族の絆?」
「これこそ愛?」
「それに比べて……フッ」
「■■■■ーーーーー!!!」
本気でブチ切れたハマーンは今まで封印していた触手の封を切る——
「あ、触手を使って喧嘩したら半年間連絡無しだって」
「………………」
ピタッと触手の動きが止まり、ワナワナと震え始める。
「ムッキーーーーーーーーーーーーーーー」
(あ……これ、罰の一環?)
日頃からプルシリーズとハマーンが仲があまり良くないとはいえ、さすがにここまで煽るようなことはしない。
ならばなぜこんなことをしているのか?それはもちろんアレンからの指示だからに他ならない。
こんなことは正常な思考のハマーンであればすぐに察することができただろう。だがご存知の通り、現在のハマーンは——
「くぁwせdrftgyふじこlp」
アレン成分切れで余裕がない状態である。
これが居住艦、正確にいえばアレン人形が存在しない頃であったなら割と長い間話す機会がなかった。つまり日頃から飴が少なかったのできにならなかったが、ここのところアレン人形で毎日のように飴を食べていたらすっかり中毒になってしまったのだ。
アレン成分は毒に分類されても不思議ではない成分かもしれない。
とうとうハマーンはイジケて部屋の隅で体育座りを始める……が、ここで更に追い打ちが掛かる。
「それとトレーニングをサボってたら更に延長するって言ってたよー」
「……」
ハマーンはスクッと立ち上がり、ゆらりゆらりと幽鬼のように不確かな足取りでトレーニングルームに向かう。
「むー!むー!むー!」
とラットプルダウン(わからない人は検索)を軽快に熟す……ちなみに重りは100kgである。(ちなみに男性、体重65kgの上級者がこれぐらいらしい)
それを見てプルシリーズも安心したように自分達もトレーニングを始める。
「イリア……連帯責任だって……いつもの2倍の5倍……」
つまりプルシリーズもイリアも連帯責任で罰としてトレーニングを増やされたのである。
2倍と5倍というのは重量があるものは2倍、回数や時間は5倍の意味である。
「……わかった」