第二百七十話
「派遣してるプル達からそろそろハマーン様が限界だという知らせが来ました」
「……自分で罰としておいてなんだが、こんなことが罰になるのか」
放置しておけば多少精神が不安定になり、鬱が発症する程度は予想できていた。しかし、限界という言葉が出るほどとは思いもよらなかった。
もしやプルシリーズに指示していた煽りが予想以上にきつかったのか?
「映像も届いてます。今見ますか?」
「頼む」
そしてそこに映し出されたのは——
「「ああ、確実に限界だな(ですね)」」
触手を禍々しく蠢かせ、抽象的な意味ではなく明確に具現化された——
「あの黒いオーラのようなものはなんだと思う?」
「……あれじゃないですか、ほら、この前見た映画のスターなんたらに出てきたフォークの力?的な」
スミレ……あまりに禍々しいからと言って現実逃避は良くないぞ。それとあの映画の力はフォークではないぞ。
「前例で考えればアレンさんやハマーン様、プルツーちゃんなどの一部の者が発することができるあの発光現象に類似したものかと思いますが……」
「あれが発光現象と同等なものか」
私もそうかと思っていたが……もしそうならあまりにも禍々し過ぎるだろう。
闘争や殺し合いなどでは美しい光なのに、たかが10日特定の人物に会わない程度であんなになるとは……理論などを考えず、ただの感性のみで言うと闘争や殺し合いこそ人間の本質だと訴えられている気分だ。
科学者としてはそんなものが本質ではあってほしくないものだな。
「それでどうするんですか?このまま放置していると……どうなるんでしょうね?」
「ふむ、興味が無いといえば……」
「「嘘になる(なりますね)」」
うーむ、プルシリーズにこれを再現させようにも、精神的に未熟であるし、成長している上位ナンバーは私に忠実過ぎてこのような現象を起こすまで追い込むとなると……下手をしたら廃人、良くて幻滅され反意を抱かれる可能性が高い。
「更に放置するのも……いや、今回は止めておくか」
「なぜですか?」
「これだけのストレスを与えるのはよろしくない」
「そうですね。ですから少ない回数で……」
「と私も思ったのだが、あちらに私達がいない以上はプルシリーズにデータ取りを任せることになる」
「ああ、なるほど。せっかくの希少なデータ取りを任せるのはちょっと問題ですね。現状、ハマーン様のフォローがすぐにできるわけではありませんし」
「そういうことだ」
というわけでハマーンのご機嫌を取ることが決定したわけだが——
「さて、どうやって機嫌を取るか」
「あ、やっぱり考えてなかったんですね」
「やっぱりとは失礼な言い草だな」
「じゃあどうするんですか?」
「…………」
「アレンさん?」
「そうだ。ムンゾに行こう」
「なんですか、それだとどこかの観光地用のキャッチコピーをパクったみたいですよ」
「いや、よく考えれば私も最近ミソロギア内に引きこもってばかりだからな。たまには外に出るのもいいかもしれない……と思わないが、たまにはハマーンやイリアに会いに行くのもいいだろう」
「そうですか、でもアッティスで行くと目立ちますし、カミーユ隊は今出てますよ?」
「問題ない」
私1人、しかもサイド3まで移動するだけならそれほど時間は掛からない……のだが、ハマーンには内密にするように釘を刺しておこう。度々呼び出されては面倒だ。今回のことですらハマーンすら知らなかったというMSに関してのデータを手に入れるという目的がなかったら動くつもりはなかったというのに。
「というわけで到着したが、なかなか便利で快適だったな」
私が作ったのはある一点を除けばマスドライバーで打ち出されるコンテナとそう変わらない。
そしてその一点とは、サイコクッションだ。
これによりGが掛からないため、マスドライバーによる投射にも生物はもちろんワイングラスすらも固定化しなくてもいいほどだ。
つまり、サイド3までマスドライバー(もちろん私が所有)で投射することで大幅に時間をカットすることに成功したのだ。