第二十七話
36時間後に出発することになったが、オクサーナニガシの提案でこれから24時間は自由時間となった。たまには良いことを言うな。
そして件のオクサーナニガシはここでお別れらしい……いやー良かった。この女、隠し事が多いし煩くて苦手だったから居なくなって助かる。
さて、24時間もあれば研究が……と思ったがこれからまたしばらく船の中で生活することになることを考えると研究は後回しでいいか。
一刻も早く研究をしたいところではあるが今しかできないことをすべきだろう。
となると自然と行き先は決まるというものだ。
「……で、その自然と決まった行き場所というのが食料品店なのはどういうことだ」
「あちらでは手に入らない食料品が多過ぎる。この前ハマーンが食べたショートケーキやチョコレートケーキなどの材料を揃えるのにどれだけ大変だったと思っている」
あれは本当に大変だった。
甘味というのは古の時代から恐ろしき副作用(体重増加)があるにも関わらず人間を惹き付けて止まない代物だ。
これの厄介なところはただただ甘いだけの甘味では人間は満足できず、見た目、食感、香りを大切にする。
それらを全て満たそうと思えば最低限の材料が必要になるわけだがアクシズだと香料の定番であるバニラエッセンスすら手に入れるのは難しい。
「……まさかとは思うが私のため、なのか」
「いや、別にハマーンだけのためというわけではないが……まぁいくらかはそうだな」
「こういうのをツンデレ乙、というのだったか」
誰だ。ハマーンにこんな俗語を教えたやつは。
「アレンだな」
……さて、買い物を始めるか。
しばらく周ってみて思ったことは……
「安い豊富新鮮」
「やはり生産コロニーがあるのは大きいな。あちらでも検討すべきか?」
是非ともお願いしたいところではあるがトップ以外は軍拡路線である以上、そちらに回せるほどの予算は確保できないだろう。
それにそんなのに回すぐらいなら私への研究に予算を回してほしいものだ……まぁ予算がなくてもどうとでもなるが、あれば時間短縮ができるのは間違いない。
「イチゴがこの値段……あちらでは3倍もするというのに」
やはり赤いから3倍なのか?赤いからなのか?おのれシャアっ?!
ちなみにアクシズをあちらというのは何処に連邦の耳があるかわからないためだ。
現在、腐っている連邦はありがたいことに公式的にはアクシズを無かったことにしている。
理由はアクシズまで遠征することの経費や一年戦争を経て一気に軍の力が強くなり、これ以上軍に力をつけさせたくないという政治家達の思惑があり、だからと言って公然的に放置するのも連邦としての威信に関わるとして無かったことにした。
そもそも一年戦争であれだけの惨劇を防げなかった段階で威信も糞もないと思うのだが……おかげでアクシズのボンクラ軍人や無能住民が今なら疲弊している連邦を倒せるなんて増長をするのだ。
「……ところでその手に持っている絶対あちらでは手に入らないマンゴーは私に何か作れと言っているのかな?」
顔を真赤にして頷いて応えるハマーン……まぁたまにはいいだろう。
「アレン、これを見てくれないか」
そう声を掛けてきたのはアンディ(原作で言うアポリー)だった。
彼が……いや、軍人が私に声を掛けて来ること自体が珍しい。
私が軍属ではないため遠慮しているのだろうが(本当はアレンが見た目の幼さとマッドさがミスマッチを起こして怖くて声が掛けられない)関わることがほとんどない。あるとしても事務的に仕事の依頼があるぐらいだ。
「俺の機体を改修していたのは知ってるだろ」
改修プランの手伝いをしたから当然知っている。そういえばもう仕上がっていると思うが……何か問題があったか?
「それでついでにオーバーホールしたらしいんだが操縦系ユニットの中にマニュアルにないパーツがあってな。それがどうやらアクシズ製のサイコミュ関連のものらしいんだ」
「なるほど、だから私か」
まぁ案の定仕事だったわけだが……ふむ、サイコミュ関連とは聞き捨てならないな。
「ああ、調べてくれないか」
「わかった。私も興味がある」
ちょうどアムブロシア(インゴルシュタットが停留している基地)にはある程度設備もあるし調べることができるだろう。
幸い、帰路のルート計算で3日ほど時間があるらしいので時間もある。
「しかし、なぜ私なのだ。別に不満があるわけではないがまずは付き合いがあるナタリー中尉に頼みそうなものだが」
「ナタリー中尉は忙しいんだよ」
……それでは私が暇を持て余しているようではないか、これでも往路の時ほど暇ではない。
「やはり断らせてもらおうかな」
「ちょ、怒るなよ。冗談だよ、冗談」
私がニュータイプでなくても今のは本気だったとわかるぞ。
……それにしてもまさかこういう感覚がニュータイプによるものだったとは……周りの人間が戦闘中に吹き荒れる思念派を受けてよく平然としていられるものだと思ったもんだが、まさか感じていないとは思いもしなかった。
「ハァ……安全に関わることだからなるべく早く終わらせてそちらに報告しよう」
「頼んだぜ」