第二十八話
「解析の結果、ビットに使われているサイコミュを小型化させたものだと判明した」
「ビットのサイコミュ……いったいなぜそのようなものが私達のMSに?」
アンディからの依頼は想像以上に問題があるものだったのでシャアに報告に来た。面倒だが解析したのは私なのだから仕方ない。面倒だが。
「ビットのサイコミュとは言ってももちろんビットのようにMSを操ろうというものではない。そんなことができるならビットがもっと小型化されているはずだからな。このサイコミュは特定の動作をさせるためだけに付けられている」
「特定の動作というのは?」
「コントロール系の遮断」
「なんだとっ」
シャアの驚きもわかる。
これがわかった時、私も背筋が凍ったからな。
「つまり相手がこのパーツを知っているニュータイプだった場合、MSは操縦不可能になるわけだ。ちなみに既に私とハマーンで実験してみたが予想通り操縦不可能になった」
「……取り外すことは可能か?」
「ふっ、私は誰だと思っている。既に取り外してある。現在は外したことによる不具合がないかチェック中だ」
「さすがフラナガン……いや、アクシズの鬼才と言っておこう」
まぁ既に私はフラナガン機関所属ではないが……だからといってアクシズの正式な住人と言えるかは定かではないがな。
税金払ってないが……そういえばあまり考えていなかったが年金や保険制度はどうなっているのだろうか。
「しかし、ファビアンの機体だけ付けられていないということは……やはり……」
「ナタリー中尉から報告があったと思うが彼はハマーンを誑し込む為に送られてきたタカ派、エンツォ大佐派だからだろう。どうするんだ……まぁあまり興味はないが」
工作員であることは既に知れているが現在は特に行動を起こしているわけでもないので放置するしかない。
私だったら何か罪状をでっち上げて始末するが……妙なところで綺麗事が多いシャアでは無理だろうな。それにマハラジャ提督にバレた場合は粛清……とまでいかないだろうが信頼にヒビが入るのは間違いない。
しかし、このまま連れて行くとすると内に敵を抱えたまま行動することになる。
「……この前乗ったジオングを譲ってもらえるという話があったが積載量の関係で断ったが……ファビアンに運んでもらうとするか」
なるほど、別任務を与えて離れさせるつもりか。
私の記憶が正しければジオングのサイズはかなり大きい。確か40m近くある。大体通常のMSの2倍相当だ。
そんな大きな荷物をアクシズまで送ろうと思えばかなり苦労するだろう。その上アムブロシアは……いや、ジオン残党はデラーズ・フリートの決起やそれに伴う連邦からの締め付けで資源不足となっている。そのため輸送するにはかなり苦労することになるだろう。
更に万が一クーデターが起こったとしてもジオングという有力な兵器を手にするのは悪くはない……良い手だ。
そして、是非私に魔改造をっ!!
ファビなんたらが下船、その代わりにイリア・パゾムの親戚であるジェラルド・シンクレアが合流してアクシズに向かって早1ヶ月半。
往路は5ヶ月も掛かったが、インゴルシュタットの改造とアクシズ自体が近寄って来ているため40日ほど早く到着する予定だ。
なかなか良い出来に仕上がったな。
「そして……ついに完成したぞ。ニュータイプ専用白兵戦用兵器!」
「……何処にあるのだ?私には見つけられないが……」
「私も同じく」
「……チッ」
ハマーンもイリア・パゾムもわからないか、まぁ当然だ。そのように開発したのだからな。
そして最後に舌打ちしたのはジェラルド・シンクレアだ。どうも彼には随分と嫌われている。
理由は……わかっている。思念を感じたからな。
イリア・パゾムはニュータイプ訓練を受ける前の性格は天真爛漫としたものだったが今では表情があまり表に出ないようになってしまっている。
そんな彼女を知るジェラルド・シンクレアとしては人格が変化……しかも一般的には悪いと言われる方向に変化させたであろう私に良い感情を持てないというのはわからなくもないので特に害になるわけでもないので放置している。
しかし、気に入らないのならわざわざ来なければいいものを……まぁイリア・パゾムはハマーンの護衛としてここにいるから仕方ないのだろうが。
さて、そんなどうでもいいことはともかく——
「これが私の開発した新兵器——テンタクルだ!」
名前を宣言すると同時に起動、そして思念を発する。すると服の袖や裾から太いワイヤーのようなマニピュレーターが這い出てきた。
「な、なんだこれは?!ま、まるで……その……」
ハマーンはなぜか顔を赤らめて何か言いづらそうにしている。なぜだ?
「これはジオングの有線式制御5連装メガ粒子砲、つまり手を参考に作った自衛用兵器だ。このように——」
マニピュレーターを動かし、ハマーンの手足に素早く巻きつけて捕縛する。
「捕縛することが可能だ。攻撃に関しても直線ならプロボクサーのストレート、曲線ならジャブ程度の威力はあり、更には私が使うならば銃弾すら弾くため防弾チョッキなども不要。自衛に——」
「どこからどう見ても触手」
…………
………
……
…
確かにイリア・パゾムに言われてハマーンの状態を見るとどこからどう見ても薄い本に出てくる触手にしか見えない。
なんて思ったのが悪かったのか——
「ちょ——這って……あっ」
「アレン博士?」
「ハマーン様っ?!」
絶対零度の視線を向けてくるイリア・パゾムとハマーンの様子に慌てるジェラルド、そしてマニピュレーター……触手に身体中を這われて悶えるハマーン。
うん、とっても18禁な光景だ……となどとまた思ってしまい触手は加速してしまったのでさすがに慌てて緊急停止させる。
その後ハマーン達に説教されたのは言うまでもないだろう。