第二百七十二話
「アレン、撫でて」
「わかった」
今、ハマーンはアレンの膝を枕としてデレデレ状態で頭を撫でるように催促し、アレンも日頃ではあまりないほど素直にそれに応えている。
触手で放り投げたのはアレン成分が不足して禁断症状が出ていたハマーンには今まで間接的な放置プレイはともかく、さすがにアレン本人から行われる無体には堪えきれずにヘソを曲げてしまったので一転して接待プレイ(意味が違……あってるか?)を行うこととなったのだ。
「フフ……幸せ」
と控えめな声で大人の女性を演出しようとするハマーンであるが、先程までの言動によって既に手遅れであるし、表情がモニャモニョと緩みまくりで顔どころか首まで真っ赤にしているため、ハマーン様ではなく、はにゃーんちゃんでしかない。
(後でプルシリーズの相手をするのも大変そうだな)
いくら落ち込んでいたからといってハマーンだけを特別扱いなどしようものならプルシリーズの僻みや嫉妬で大事になる可能性があるからだ。
(英才教育を施しているとは言ってもやはり子供、やっていいことと悪いことの区別がつくとは言い辛いからな)
もしかすると肝心な時にハマーンを守らずに命を落とす、などということがあるかもしれないのだ。実際、カミーユ隊のプルシリーズ同士が遊び半分、訓練半分で触手で白兵戦の訓練を自室で行って大惨事になったという事件があったのだ。
元々ミソロギアや艦内では触手移動を行うプルシリーズであるが、居住区や重要区での使用は禁止されているし、カミーユ隊に属するプルシリーズはミソロギア外で活動できる、ある種のエリートであるにも関わらずこういった小学生か?!と思うような事件がたまに起こるのだ。
もちろん、プルシリーズもクローンではあっても人間には変わりないので魔が差すことはあることはアレンも理解しているが、それを未然に防ぐように動くのも上に立つ者の責任だと理解している。
(組織運営とは本当に面倒だな)
ちなみにその問題を起こしたプルシリーズ達はしばらくアレンの実験に付き合わされ、それ以降必要な時以外は触手を振るわなくなったそうな。
「ところでハマーン」
「な、何?」
「最近仕事が滞っているそうだな」
「……」
「イリアが助けてほしいと泣きついてきたぞ」
もちろんあのイリアが本当に泣いていたわけではない。しかし、イリアの権限で行える決済は限られているため仕事が溜まる一方、そして何よりハマーンが放つ重たい空気に耐えきれなかったのだ。
「イリアまでアレンと連絡をしていたなんて……」
忠実な腹心が告げ口のようなことをしたことより、自分を差し置いてアレンと話をしていたことに愕然とするハマーンをみてアレンは思う。
(確かにハマーンには依存傾向があったが……これほど依存していただろうか?)
そんな疑問を懐きつつもハマーンの頭を優しく撫で、自分よりも高い身長に嫉妬(アレンの身長は自称155cm、ハマーンは168cm)しつつも、たまにはこういう時間もいいか、と思うのだった。
「……そこの君、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。身分証を出せ」
散歩をしていたら変な仮面をつけた男に職質された。……いや職質というには銃を片手にしているのだからより物騒な何かか。
というか、むしろお前が職質される側ではないのか……ん?
「ああ、もしかしてお前が全——フル・フロンタルか」
さすがに本人を前に全裸呼ばわりは失礼だろうと思い至りなんとか踏み留めることができた。
そういえば一年戦争の頃はシャアも似たような仮面をしていたのを思い出したのだ。
私が直接シャアと関わりを持ったのは一年戦争が終わった後のアクシズでのことで、あの頃のシャアは日差しもないのにサングラスを掛けていた程度の怪しさだったのですっかり忘れていた。
「そうだが……なぜ私を知っている」
ああ、そういえばフル・フロンタルは軍部でこそ有名だが、一般的に知られているわけではないとハマーンが言っていたか。
ちなみにフル・フロンタルもニュータイプであるにも関わらず、私がなぜ気づかなかったのかというと私のニュータイプ能力が近頃低下している……などということはなく、ただ単に私自身がここにいることを悟られないために抑え込んでいるだけの話だ。
私が普段どおりにここにいたなら他のニュータイプに気づかれてしまうからな。
ニュータイプ能力を抑えているとは言っても殺気や生命の危機が迫っている場合は勝手に察知するので危険なことはないのだが……さて、まさかこんなところで全裸と会うとは思わなかったがどうしたものか。