第二百七十四話
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「今日はこのあたりにしておくか、随分とニュータイプとしてレベルがあがっていたな。よし、授業料としてハマーンとの模擬戦で使っていたニュータイプ専用機の設計図をいただこうか」
頭にヤがつく自由業の人達も真っ青なことを言い始めた。
ちなみにニュータイプレベルがあがったのは本当である……あるのだが、勝手に人の過去や思いを読み取っておいて更に代金を要求する。さすがはアレン、常識は搭載していても簡単にぶっちぎる。
「そん……なこと……でき……るわけが——」
「では貴様にいいことを教えてやろう。ただし、これを外に漏らすことは許さない……まぁ別に構わんか?しかしいらぬ混乱を引き起こす者もいるだろうし、やはり漏らすなよ?」
「一方的に——「私とハマーンはミネバが戴冠し次第、地球圏から火星あたりに移住する」——ッ?」
今まで隠していた(というより知らせるメリットがないから公言していなかっただけ)ことをさらっとフル・フロンタルに伝えられた。
それを聞いたフル・フロンタルはしばし唖然としたが、その言葉に偽りがないことをすぐに察した。
元々ネオ・ジオンがアクシズだった頃のハマーンの威勢がネオ・ジオンが設立した時から下火になったことは以前から疑問に思っていたが——
(なるほど、こんな化物に魅了されていればネオ・ジオンなど些細なものだろう。私としてはこんな化物の近くにいるのは御免被るが——)
「私はフェミニストでね。男に人権はない」
「それは素晴らしい思想だな」
もちろん皮肉であるがアレンの感情に影響を与えることはない。もっとも自身の思考をリアルタイムで読み取られているためにフル・フロンタルは冷や汗が止まらないし、そのこともアレンは当然読み取っている。
アレンほどのニュータイプともなれば妖怪サトリと同レベルであり、多少失礼なことを考えていたとしても一々反応することはない。
もちろん限度というものはあるが、よほどのことでもないかぎりはアレン特製のサプリを無理やり飲ませる程度(程度?)だ。
「さて、追加料金として貴様達武断派の幹部の家まで案内してもらおうか」
「しれっと代金上乗せとは良い商売をしている」
「私は商人ではなく研究者だ」
「……何が目的だ」
「それを知りたいのか?」
言外に、それを知った後どうなるか想像しているのか、と聞いているのだ。
口封じに殺す……なんて楽なことにはならない。なぜならフル・フロンタルは素質はともかく、ニュータイプである。
アレンがニュータイプをただ殺す?ありえない。拉致され、シャアやシロッコ、アムロのように敵ではないが味方ではない中立的な立場でもなく、カミーユやジュドーのような擁護者でもない以上、人権を守られず、生かさず殺さず永遠に実験台とされることになる。
ちなみにそういう検体は今まで語られていないが、ミソロギアに存在する。ただし、人間とも言えない存在になっていないし、アレン以外にその存在を知る者はいない。
「……わかった。案内する」
とうとうフル・フロンタルが折れた。
「MSの設計図も、だ」
「……わかっている」
フル・フロンタルがあえて話を出さずに流そうとしたのだが、きっちり言及された。