第二百七十六話
観光を兼ねた武断派幹部の仕分け(ジャプニカ暗殺帳への記載)も終わり、これで用済みだろうと言ってフル・フロンタルは立ち去——
「まだMSの設計図が残っているぞ」
だが、ラスボスからは逃げられない!
触手によって引き止められた。
「所属している私が言うのもなんだが、あのようなMSの設計図など君に必要はないだろう。実際、君の作ったクィン・マンサ相手にろくに戦うことすらできなかった機体だぞ」
「まぁ私が育てたハマーンと作り出したクィン・マンサだから当然だが、それはそれ、これはこれ、だ」
実のところアレンはそれほどギラ・ドーガサイコミュ試験タイプが欲しいわけではない。
アレンの本当の狙いは設計図ではなく、ネオ・ジオンのニュータイプ研究所の進歩状況の確認なのだ。
宰相であるハマーンですら知らないMS、しかもニュータイプ仕様ということはニュータイプ研究所の現状を把握できているとは言えないということだ。
だからといってハマーン達が本気になって調べればある程度調べることはできるだろうが、それだと反意を抱かせる可能性が高い上に、おそらく隠蔽されている研究所も存在していることは想像に難くないため、無謀な調査をせずに成果から研究度合いを測ろうとしているのだ。
(全裸は中心人物であるにしてはそのあたりをそれほど把握していないようだ……何より中心人物ではあるがトップ(社長)ではなく、トップ(雇われ店長もしくはフランチャイズ店長)のようなものだからな)
アレンはフル・フロンタルと共鳴したことで重要な情報は引き出すことに成功していたため、フル・フロンタルの立場をほぼ正確に把握していた。
ただし、やはり人間の保つ記憶というものは膨大な情報量でありながらも本人が捏造することもあるというなかなかに厄介な性質を持つため、確度はかなり曖昧なものであるが全体的に見れば8割ぐらいは本当のことであり、日常的に意識する情報などはほぼ確実な情報で己の立ち位置などに間違いは早々ない……一部の例外(勘違い野郎)を除けば。
「仕方がない、対価として更にニュータイプとして高みを——」
「断る!」
「おい、ニュータイプとして高みに上りたいという志は何処いった」
「それとこれとは話が違う。貴様のしているのはニュータイプという能力の進化であり、私はニュータイプという存在への進化を望んでいる」
「ふむ、まぁ元々今言われているニュータイプを定義している能力は我々研究者が勝手に名付けたものであるからその意見は尊重しよう……ならばクィン・マンサに乗ってみるか?無論実機ではなくシミュレータだが」
「………………なに?」
アレンから出た言葉は予想していたものとは違い、すぐに返事を返すことができなかったフル・フロンタルだったが何とか言葉をひねり出すことに成功した。
「もちろんデータ取りなどは認めん。ただお前が乗ることだけは認めてやろう。どうだ?」
「なるほど、近い内に地球圏から離れるというのは本当のようだな」
「それもあるがお前達が先日話していたとおりクィン・マンサの後継機もだいぶ形になってきたのでな。あれが多少知られたところで痛くはない」
お前達が話していた、という言葉にフル・フロンタルは肝を冷やす。
(一体何処から何処まで読み取られている。これでは迂闊な思考すら——)
「できないな。しかし考えることは人間の最大の武器にして嗜好品だ。それを否定することはないので安心するといい」
「それはありがたいことで」
もちろん本当にありがたく思っているわけではない。皮肉である。
「……わかった。今度こそその取引、受け入れよう」
「良きに計らえ」