第二百七十八話
前回のあらすじ!
ひょんな事でラスボス(アレン)と遭遇したラスボス(哀れな羊)は餌に釣られて自身を売ってしまった。
そして拘束された状態でダンジョンに到着すると不用意な発言でエリアボス(ハマーン)による照れ隠し(殺人級)で放たれた拳をもらって重症になったフル・フロンタルはヒーラー(物理)であるアレンの手で開腹……もとい回復に成功した。
(私は今日だけで何度死にかけたらいいのだろうか)
そんな思いなど知らない……いや、知ったところでだからどうしたで片付けられる非常識エリアである。悲しい現実だ。
「……それにしても、随分大掛かりなシミュレータだな」
「…………ああ、そういえば一般的なシミュレータはGを再現しないんだったか」
引きこもり歴が長いアレンはすっかり忘れていたが、一般的にはGが再現されているシミュレータはネオ・ジオンや連邦でも多くは設置されていない。しかも、更にサイコミュ兵器の再現機能までとなると世界的に見ても数機あるかないかである…………ミソロギアには10台以上あるが。
「Gの再現……そんなシミュレータを船の中に……」
「不思議か?」
「いや、逆に納得できた」
こんな特殊な環境でなければハマーンの強さは作られないだろうとフル・フロンタルは思う。ただしこれが強さの秘訣のほんの一部だということも理解している。
(これを用意したのはハマーンではなく、間違いなくこの男……クィン・マンサといい、あのキュベレイといい、ガッライといい大したものだ。これらを個人で開発しているというのだから恐ろしいな……ただ、そんなものよりあの共鳴の方が恐ろしいが)
自身の全てを読み取られる……読み盗られる感覚を思い出すと身体から魂まで凍りつくような感覚に陥るフル・フロンタル……つまり完全にトラウマである。
ちなみに共鳴による読み取り、仮称としてサイコスキャンとする……は、ハマーンやプルシリーズに使用したことはない。
なぜならスキャンする側には特にデメリットはないが、スキャンされる側には問題がある。というよりフル・フロンタルがなっている状態がそうだ。
トラウマというのは重度になると、それに類似する環境や原点となる存在を認識してしまえば精神が不安定になってしまう。
共に生活をしている相手がそのような状態ではさすがに常識が欠けているアレンでも落ち着かないのだ。
「さて、とりあえず乗れ」
「……異論はないがもう少し言い方を……」
ブツブツ文句を言いつつも素直に従うフル・フロンタル。
「マニュアルは……ん?操縦桿がない?」
「ああ、それはパイロットの脳波で操縦するものだからリクライニングチェアで十分なのだ」
ミソロギアの主力機体は訓練兼支援砲撃機であるキュベレイ・アルヒを除いて脳波で機体制御するサイコミュコントローラーが標準装備されている。
クィン・マンサも例外ではない。
「それと乗せといてなんだが……いや、やはりやってみてからでいいか」
「そこまで言ってやめるのはどうかと思うが」
「気にするな。クィン・マンサはそもそも一定のニュータイプ能力が必要なのだが……うん、計測結果では私の予想通り今のお前ならなんとか動かせるはずだ」
言外に、アレンのプレッシャーと共鳴で底上げされていなければクィン・マンサをろくに動かすことができなかったと言っている。
クィン・マンサは操縦技術も必要だが、一定のニュータイプ能力が必要なことの方がハードルとしては高いのだ。
「さて、ネオ・ジオンのエースの実力を見せてもらおうか」
シミュレータコクピットが仮想世界を映し出す。
舞台はサイド3宙域で、グワジンのハンガーからスタートとなる。