第二百七十九話
「操縦桿がないとは予想外だったが、なんとかしてみせる!」
ジオン系でもなければ緊急時に操縦できるように訓練したことがある連邦系のものですらない操縦系で、しかもマニュアルすらも存在しない。
…………(3分後)…………
「なぜだ!なぜ動かん?!」
おっと、ここでフル・フロンタルに別キャラが憑依したようです。ちなみに彼は地球で元気にハーレム……ゴホン、ニュータイプ部隊の育成とそのついでにエゥーゴと政争を繰り広げています。
動かない理由は決してアレンやハマーンが妨害しているわけではない。
ただ、単純に——
「やはり何も知らずに動かすには能力不足か」
ということである。
ついでに言えばアレンやハマーン、プル、プルツーなどは初回起動でも動かせたのだが、他の個体はあまり芳しくなかった。
つまり、フル・フロンタルが動かせないのは仕方ないことなのだ。決して彼が無能というわけではない。
「まずは目を閉じてみろ。それで少しわかるはずだ」
一般人からすれば何処かの宗教の修行かと思われかねないアドバイスではあるが、フル・フロンタルは言われるがままに目を閉じる。決して無視するとどんな酷い目に遭うかビビったわけではない。
そして、その効果はそれほど時を置かずして表れた。
「……こうか?」
そうつぶやくとほぼ同時にクィン・マンサの脚が持ち上がり、1歩を踏み出す。
もっともこの成果に喜ぶものはネオ・ジオンの(年齢不詳なので経歴的な意味で)若きエースのデータを手に入れることに成功したアレンぐらいで、ハマーンやプルシリーズは冷めた目で見ていた。
「アレンもわざわざクィン・マンサに乗せる必要なんてなかったのに……ストラティオティス……アルヒでもいいじゃない」
「ストラティオティスはデザインがキュベレイですから興味を引くには弱く、アルヒは訓練機であるため、今回のように他国の人間に力を示すという意味ではやはり弱い」
「わかっているわよ!」
などというやり取りを聞いたアレンはふと思った。
(なるほど、適度に力を示せるMSというものがあってもいいかもしれないな)
辺境へ旅立つことが決まっているとは言え、まだ時間があるのだから牽制目的に自分達の技術力を示すような機会がないとも限らないと思い至る。
そもそもサイコミュコントローラー1つをとってもその技術力の一端を見せるには十分なのだが……もっともニュータイプに価値をはっきりと見出しているネオ・ジオンはいいが、頭が固い連邦では未だにニュータイプを詐欺師扱いする者が多いのでもう少しわかりやすい技術の方が効果的だろう。
「さて、やっと出撃か」
フル・フロンタルが操るクィン・マンサがカタパルトに立ち、そして、打ち出された。
「この加速でこのG……再現が甘いのか?」
元々虚弱とも言っても過言ではないアレンがMSに搭乗するために考えられたG対策(対Gスーツのみにあらず)はクィン・マンサを始めとしたミソロギアに所属するMSには標準装備である。
「こうすれば——くっ?!」
制動をかけようとスラスターを吹かした……次の瞬間、クィン・マンサが縦回転していた。
「プッ」
「当然の結果ですね」
「ああ?!私のクィン・マンサが!!」
そもそもの話、歩行すら満足にできなかったようなパイロットが宇宙空間に出るような無謀なことは誰もしない。そんなことをすれば教育に問題があるということで再教育(ハード)を受けることとなるためである。
「満足したか?」
「はい。このような機体をあれほど操るとは……ハマーン様の凄さ改めて実感いたしました」
結局、フル・フロンタルは最後の最後まで満足に動かすことができずに終わった。
一応それなりの機動を行うことはできるようになったが、その動きは先日のフル・フロンタル専用のギラ・ドーガの方が随分とマシだとフル・フロンタル自身も周りもそう評した。
「そうか、これからも精進するといい」
「ハッ」
会話だけ聞くと良い上下関係のように思えるが、ジト目で見つめるハマーンとその視線から逃れるように顔を逸らしているフル・フロンタルの構図を見れば少なくとも言葉通りの意味だとは思えないだろう。