第二百八十話
「あの全裸、少しは礼儀を弁えているらしいな」
約束通りギラ・ドーガのサイコミュ搭載機の設計図を持ってきた。一通り調べてみたが小細工した様子はない。(クレームが怖くて正直に渡した)
しかしそれだけではなく、無理したようだがニュータイプ研究所の研究データも献上してきた。しかもどの程度の研究データなら貢献できるのか読めなかったようでできうる限りのデータを詰め込んだものとなっている。
元となる研究機関が同じであるため重複したデータもあるが、おそらく記録日時を新しいものから詰めたのだろう。概ね初見のデータであった。
そのデータはやはり凡人の集まりであるとは言っても物量は1つの解決の道だということが証明されるかのように膨大で貴重な物が多いと。
方針として相変わらず人権無視の研究を続けているようで偏ったデータが多い。特に薬物関連のデータが多い。
「応用ができそうな薬品もあるな。それに随分と完成度が高い強化人間が生み出せるようになっているようだ」
どうやらサイコミュの進歩で副作用が軽減されたことと強化の方向性を定めたことでそれの副作用も軽減され、安定してきているようだ。
「もっともまだまだお粗末なものだがな」
わかりやすく例えるならプルシリーズの最低ランクでファンネル6基は操れるが、強化人間は平均化して3基程度という実戦に耐えられない程度でしかない。それでも標準的なオールドタイプよりは強いだろうが、コストに見合っているかどうかと言われればないとしか言えない。
「それにしてもところどころナナイが関わっているようなデータがあるようだが……こちらにも協力しているのだろうか」
最近はあまり外を気にしていなかったため、情報が少なくて判断がつかない。
元々ナナイ・ミゲルはサイド3内に潜んでいたジオン残党であったこともあって未だに繋がりがあったとしても不思議ではないが——
「もしくはナナイ・ミゲルの身近に内通者がいる、か?」
この前、ナナイ・ミゲルからの連絡があった時は間違いなくエゥーゴの監視を警戒して連絡していた。つまり公的にはネオ・ジオンに属しながらも実質的には中立的立場である私に連絡をする程度でもそうなのだから連邦が1番警戒しなくてはならない仮想敵であるネオ・ジオンに情報が漏れているのだからナナイ・ミゲル自身が漏らしているというよりも身近に内通者がいると考える方が自然だ。
まぁわざわざそれを知らせようとは思わないが。
ネオ・ジオンならハマーンを、それだけでなくプルシリーズや私自身が動くことで情報を得ることは難しくないが、相手が連邦やエゥーゴやティターンズとなると面倒なことになる。
私ぐらいの天才ともなれば地球に住んでいる人間でも気配を感じられるし、気配を覚えていれば居場所も特定できる……が、フル・フロンタルに行ったような共鳴による記憶の読み取りなどはかなりハードルが高い。単純な感情ぐらいなら読み取れるがな。
だから連邦の情報をネオ・ジオンから情報を得られるならその方が楽だ。
「マフィアに弱みを見せれば付け狙われ続けるという……それに習うとするか」
全裸は取引とはいえ、情報をこちらに流してしまった。国家反逆罪……にはならないか。仮にも私は宰相のハマーンの協力者で、所属もネオ・ジオンだ。しかし、派閥を裏切ったという点においては間違いない。
その弱みは遠慮なく使わせてもらおう。
「……ふむ、見せる技術というのも実践するのもいいかもしれないな」
さすがに弱みばかりを攻めてしまえば完全ではないにしても慣れてしまい、絶望は自棄へと変貌する。そんなことになっては面倒だ。
「全裸専用機……字面だけ見れば変態のそれにしか見えないな」
これを思い立ったのはネオ・ジオンのニュータイプ研究がどの程度なのかも把握できたことも大きい。
見せる技術は相手より少しだけ上回ったものがいいだろう。