第二十九話
テンタクル……改め、エロ触手と(ハマーン達が)命名した私の新兵器に関してハマーン達が勘違いしていたことを少し捕捉しておこう。
ニュータイプ専用兵器ということからサイコミュの小型化が成功したと勘違いされたがサイコミュ自体は既存の物と変わりない。
仕組みが少し特殊なだけなのだ。
テンタクルには脳波増幅送信機と受信機が内蔵されているがサイコミュ自体は内蔵していない。なら何処にあるのか、と思うあろうが実はMS格納庫にある。
つまり、テンタクルで脳波を発信→サイコミュで受信し処理→処理されたデータをテンタクルが受信というなんとも手間がかかる仕様だ。そのため本体であるサイコミュから離れすぎるとエロ触手はただただ重たいだけの金属の塊となる。
通常はサイコミュに脳波測定機能と処理機能と送信機能が組み込まれているためニュータイプの先読み能力も活かせるのだが、この外付けサイコミュとも言える仕様は手順が増える分だけタイムラグが生じるため優れた先読み能力がないと運用は難しいようだ。
ハマーンやイリア・パゾムが(嫌々だったが)試させたところ対人制圧には相手が10人であろうが問題なかったが銃弾を弾くことはできなかった。
私でも拳銃以上の威力ならギリギリ間に合うかどうかである。
改善したいところだが集めた廃材ではこれ以上は難しいためエロ触手に関しては修練に勤しむだけになるだろう。
ただ、このエロ触手、なかなかに便利だ。
私の思い通りに動いてくれるので第3〜第6の腕として開発や研究で役に立ってくれている。特にあまり複雑ではないが大量にいる部品……ネジや歯車などの生産や微調整に優れている。
私が使うものは廃材であるからネジ1つでも精密機械であるためそこらにあるものを使うわけにもいかず、合うものを探すのは不可能に近いので今まで手作業で作っていたが、このエロ触手ならもっと効率的に作ることが可能だろう。
む、触手の先端に道具を内蔵させて……いや、駄目だな。これ以上内蔵しては触手の動きが鈍くなる可能性が高い。
それにエロ触手を身に着けたことで重量が増え、人工重力下では身動きするとすぐに体力が尽きる。無重力下ではマシにはなるが……関節へのダメージが深刻になりそうだ。(無重力だと壁などに着地した際に衝撃が膝などに集中して掛かる)
それらの問題を解決したのがエロ触手による動作補助なのだが、道具を先端につけるとなると動作補助を行う際に衝撃で壊れたり不具合を起こしてしまう可能性がある。
なかなか難しいな。
この重量問題もあってエロ触手が4本と数が少ない理由にもなっている。
将来はルナチタニウム合金……アクシズ流でいえばガンダリウム合金αか……を使った触手を開発するか?軽量化すれば……しかし現行のMSにすら使われていない素材を手に入れるのはなかなか骨が折れるだろう。
今回、非常時とは言え戦場に出ることになったのだからその報酬としてもらうことができる……といいのだが。
インゴルシュタットはアクシズへの帰還のため出港した。
帰還に掛かる日数が40日短縮されても2ヶ月半以上掛かるというのはやはり気が滅入る。
満足な廃材が手に入らないので研究、開発が満足にできない……ジェラルド少尉が搭乗するあたってドム・フュンフというレアものを弄ることができたのは嬉しかったがさすがに2ヶ月半も保たせるのは無理だ。
「……そういえばクーデターの前兆があるということで早く帰ることになったが……私達はハト派につくことになるはず」
ハト派はアクシズでは少数派だ。
マハラジャ提督がハト派であるから何とか与党でいられるだけで勢力的には弱小野党なわけで……もしかしてクーデターが発生した場合、私も戦力として駆り出されたりするのだろうか。
「そのあたりどうなんだろうな」
「……そういうのはシャア大佐に聞いた方がいいと思います……」
シャアに聞くと容赦なく駆り出されそうだからナタリー中尉に聞いているのだ。
「そんなことは……でも、私に聞かれてもわかりません。大佐もアクシズの状況を把握できていませんから」
「ちっ、赤い彗星もその愛人も使えんな」
「ちょっ?!愛人ってなんですか!」
「む、これはうっかりした。愛人ではなく本妻だったな」
もっとも心の本妻はララァだろうが。
「だから何を——」
「ふん、ニュータイプがどういうものか、研究者のナタリー中尉ならわかるだろう」
「——っ?!まさか記憶を……もしかしてハマーン様も?!」
「さて、そこまでは知らないな」