第二百八十二話
ヒットボックス。
戦闘機、MS、戦車など戦闘に関わるものは被断面積が小さいほど有利とされていることから生まれた言葉だ。
元来小型化というのは兵器に限らず、家電などでも推奨されてきたものである。
しかし、宇宙空間でMSの小型化というのはどこまで有効なのか疑問だ。もちろん有効なのだが、広大な宇宙でMSの戦闘距離では射角が少しでもズレればほとんど射撃が当たることがない。だからこそ音速の実弾ではなく、少しでも命中率を上げるために亜光速のビームが主流なのだが、それでも縦横無尽に動くMSを狙い撃つのは難しい。
その難易度は小型化すればするほど当たりづらく、大きければ大きいほど当てやすい……が、私からすると誤差程度でしかない。
もちろん命が関わることであるから誤差程度でも最善を尽くすべきだろうと思うかもしれないが、それを上回る性能向上をさせていると自負している。
「つまり、小型化されたあれは玩具ということだ」
「確かに私の反応速度には付いてこれそうにはないし、機動力も現在のネオ・ジオンの標準サイズのMSよりはあるにしてもストラティオティスにも劣るが……アレンの強化を受けていないニュータイプにはちょうどいいか」
実際、全裸は冷静なフリをしているが随分と楽しそうにしている。
まぁ気持ちはわかる。
私も満足に思い通りに動かせないMDにどれだけストレスを抱えたか……ちなみに急遽、ギラ・ドーガのサイコミュ搭載型の装甲を削り落としたものを量産してそちらにMDを入れ替えることを決定した。
なぜギラ・ドーガにしたかというと思ったより生産性がよかったこととサイコミュやOSはともかくとして機体自体は私の技術を使わないので情報漏えいの防止策が中枢のみに集中できることと現行機などより高性能であったからだ。
「そういえば今回みたいに技術を下げるっていう視野を広げたらプル達が作れるサイコミュというのがあってもいいんじゃない?それこそMD用のサイコミュあたりは作れるように設計できないの?」
「ふむ、そんな考え方はしたことがなかったな」
天才というのは誰かに任せるよりも自分でしてしまった方が早いことが多い。もちろん私もその例に漏れない。
そもそもミソロギア内の生産は私の手製か私が自作した生産ユニットが担っている。
プルシリーズに多少劣化したとしてもサイコミュの生産を任せることができたなら随分……しかし生産ユニットよりも精度が上回るだろうか?
サイコミュの生産ユニット化していない理由は実のところ以前、生産ユニットは作ったことがある。
だが、問題があった。
わかりやすく言うとカットの精度とその維持が問題なのだ。カットの精度は私の手製を100%とした場合、0.1%狂いがあるだけでパイロットに掛かる負担は大体10%増加することになる。
ユニットで生産してしまうと最初は94%程度の精度で製造できるが、10個を超える辺りから2%低下し、百歩譲ってそれを許容したとしてもこれ以降も当然だが下がり続ける。つまり、生産ユニットの精度を維持するためには私が生産ユニットをメンテナンスをしなくてはならないわけだが、この生産ユニットを維持することと自分でサイコミュを作ることを比べるとそれほど差がない。
その点プルシリーズが90%……いや、92%あたりで生産できるなら集中力の低下を防ぐ休息というメンテナンスだけで済む……品質が安定しないという点を差し引いても十分と言える。
まぁ結局メインとなるCPUは私しか製造できないだろうが……こちらは仕方ない。情報処理の遅れはMSの性能自体が大幅に低下を招くからな。
(ちなみにこの場にいるプルシリーズから「余計なこと言いやがって」的な視線がハマーンに降り注いでいる。だが、ハマーンはアレンに鍛えられたスルースキルで受け流している)
「ハッ?!私は一体?!……大佐はどこ——」
「うるさい」
全く、人が考え事している時に煩いやつだ。
(別にいいんだけど……アンジェロ・ザウパー……哀れね。散々邪魔ばかりするから同情はしないけど)