第二百八十六話
「1ヶ月で4箇所の基地を支配下に置いたか、それにエゥーゴとティターンズは気づいていない……滑り出しは上々と言ったところか」
もちろん武力を使った支配下というわけではない。
まだニューオーダーの戦力ではエゥーゴやティターンズ、それぞれ単体となら軍縮やそもそもの規模が大きくないことから戦うことはできるが両戦力、もしくは連邦軍そのもののと戦うことは難しい。
そもそも武力蜂起は兵法としては最後の手段というのは常識である。外交や謀りなどが戦争の本領だ。
私達が提供したリストを上手く利用したようで取り込みはスムーズに行われたようだ。
もっとも期待を持たせるだけの戦力を有しているとなれば説得は容易だろうとは思っていたがな。
「これから地盤固めか」
支配下とは言ったが、今はそれぞれの基地の上層部を取り込んだに過ぎず、軍人が上意下達とはいえ思想の違いは獅子身中の虫となるので転属、外部から同志を引き抜くことで足元を固める予定だ。
「これも紙一重だがな」
万が一、ニューオーダーが潰えた場合、過激派のアースノイド主義者が軍の中から消滅しかねない。そうなった場合、正しくエゥーゴとティターンズの二強となり、次は今回のように簡単に火付けを行うのは難しくなるだろう。
まぁ目的は連邦打倒などという無謀ではなく、あくまで時間稼ぎに過ぎないので次は考える必要はないだろう。
「それにしても……連邦軍は大丈夫なのか?軍縮はわかるが、辺境であるとは言っても未だにジムが現役というのはどうなんだ」
今回のことでジャミトフ達から連邦のデータを分析している内に頭が痛くなった。
そもそも軍事予算と実際使われている予算の差は50%……残りは何処かに消えている。これが隠匿されたプロジェクト予算などに使われているのならいいが、連邦から新しい兵器が発表されるようなことはここ最近は1つもない。
ほとんどがアナハイムによるものか、ティターンズによるものかのどちらかである。
それに予算の半分も隠匿したプロジェクト予算とするとは思えない。
おそらくこのほとんどが横領されているのだろうというのが私の見立てだ。
所詮エゥーゴもティターンズも軍事力はあっても政治力はない。戦時や非常事態には大きな発言力を有するが、平時では政治家や官僚、経済界の面々の舞台だ。
結局の所、一年戦争もデラーズ・フリートもエゥーゴとティターンズの紛争も人類を大きく減らして地球を破壊しただけ……人類は、世界は変わらない。
「ジオンが勝っていたとして変わらなかっただろうが……そもそも勝利する前から兄弟同士で派閥争いしていたからな」
もし変えようと思えば、政治家や扇動家が好みそうな言い方をすれば人類には変革、進化が必要だろう。
その1つの可能性として語られたのがニュータイプだが……さて、人類がニュータイプとして覚醒したとしても人類が進化を、変革を迎えることができるのかは些か疑問ではあるが。
「それにしても……欧州のアースノイド主義には呆れる」
欧州は世界を自分達が引っ張ってきたという傲慢さを持っている。そしてその傲慢さはティターンズを生み出したのだ。
実際、ニューオーダーが支配した基地は全て欧州……イギリス、フランス、ドイツ、スペインの4箇所で、既にそれぞれの国の企業や政治家などとの繋がりが既になされている。
おかげでこちらの持ち出す資源は最小限で抑えられた。しかもどうやら協力企業は私の設計したペガサス級が甚く気に入ったようでもう1隻建造しようという話も出ているようだ……が、現状で2隻目がいるとは思えないが、それはあちらで判断してもらうとする。スポンサーではあっても下部組織ではないのだから全てをこちらで決めることはない。
ちなみに提供しているMSは資源は私が提供しているが製造、整備は不死鳥の会に全て任せているので私の手間はそれほど増えていない。
「アナハイムに気づかれる前に勢力拡大を急がなければな」
アースノイド主義というのは月に本拠を置くアナハイムの天敵に近い存在なのはわかるだろうが、1番の要因は政争の敵でもあるという点だ。
アースノイド主義達は宇宙に住む者達は奴隷程度にしか思っておらず、増税や安い労働力を手に入れようと常に動いている。
そしてもっとも対象にされているのは軍需産業で成功し、内紛の勝者エゥーゴの実質的な支配者、金も権力も手にしたアナハイムだ。
そんな関係で、独自に武力を手に入れたと知れれば嬉々として刈り取りに動くだろう。掲げる大義は地球にしがみつく負の遺産を清算するとか国家反逆罪とかそんなところか。
「まぁこちらはこちらで忙しいので何かするわけではないが」
クィン・マンサIIは仮完成に漕ぎ着けたのだが……残念ながらやり直しとなった。
どうも納得がいかない。
耐久性、防御性、機動性、運動性、総合火力、新たなシステムなど全ての面でクィン・マンサのそれを上回っている。
しかし、なぜだろうか、後継機として間違いなく適している。にも関わらず私は仮完成を見て納得いかなかった。
理性ではなく、感性から来るものであるため、自分でもわからず手が止まり……設計と思いついた新たな試みを投入することにした。