第二百八十八話
0093年もそろそろ終わろうという頃に……事件は起きた。
場所はサイド3に属するコロニー群の10基ほど、そしてそれらは示し合わせたようにほぼ同時刻に行われた。
「お前達は自分達で仕出かした罪を忘れ、生きていくなど言語道断!今ここで!裁きを下す!!」
宣言には細かな違いがあれど、概ね同じ内容が叫ばれ……そして、その叫びを現象として起こしたかのような大爆発。
所謂自爆テロである。
アレンはミソロギア付近のことならともかく、サイド3のことまで気にしておらず、悪意を持つ人間がいることは把握できたとしても一々気にしているわけもなく、何より悪意はハマーンやプルシリーズに対してではなくスペースノイド全てに向いていたことも1つの要因であった。
ただし、ハマーンやプルシリーズはその強い悪意を察知して対応に動いていたが、思った以上に数が多く対処しきれず、未然に防ぐことができなかった。
自爆はコロニーに穴を空けるには十分な威力であったために空気が流出し、生身の人間も放り出されてしまった。
未然に防ぐことには失敗したが素早い対応で空いた穴を塞ぎ、被害は最小限に抑えられた。だが、死傷者は年末のイベントの真っ只中で行われたこともあって500人を上回る。
「やってくれたな。ニューオーダー」
なぜこのタイミングで自爆テロ?と思ったアレンが調べた結果、裏で糸を引いているのはニューオーダーであることが判明したのだ。
何とかエゥーゴとアナハイムの目を誤魔化してきたニューオーダーだったが、監視の目が煩わしくあるのは変わりなく、そこで策を巡らす。
自分達に向けられた目を別に移させればいい。それならばいい相手がいるな。そう、憎き宇宙人共とあの売国奴共が潰しあえば一石二鳥どころではない。という流れるように今回の策を実行することが決定したため、アレンが把握することもできなかったのだ。
「そして次の一手はこれか」
国会では今回の自爆テロによってネオ・ジオンの管理能力を疑問視する声が上がる。
元々公式的にはサイド3は内乱もあり、管理が行き届かないことを理由に民間団体ネオ・ジオンに管理を委託されているという扱いになっているので管理能力と責任を問われるのは不思議なことではないのだが、影で動いているのはもちろんアースノイド主義を掲げるニューオーダーだ。
ネオ・ジオンの責任追及は上手く突けば、それを取り纏めたエゥーゴの責任問題にも発展させることができる上にネオ・ジオンがそう簡単に責任を取るとは思えず、ネオ・ジオンが言い逃れをすればするほど連邦との摩擦は大きくなり、ニューオーダーには理想的な流れとなる。
「ニューオーダーの動きはそれだけではないようだぞ」
そう言ってジャミトフはアレンに情報端末を見せる。
そこにはサイド3でテロは連邦によるものと断言している記事が多い。つまり、ネオ・ジオンに再び連邦にけしかけようとしている。
これがなぜこの情報を流したのがニューオーダーであるとジャミトフが判断したかと言うと本来判明するには早すぎるし、もし判明したところでネオ・ジオンは市民に現段階で漏らすことは連邦との対立や摩擦を生むことになるので今流すわけにはいかない情報だ。
「このタイミングだとハマーンも対処ができないだろうな」
事後処理は山のようにあるであろうことは調べるまでもなく、時間差で重ねてテロが起こされる可能性も考慮しなければならないため対策にも手を打たなくてはならないのだからてんやわんやな状態で新たな筋からの情報に対しての統制は後手に回ざるを得ない。
「それに連邦との対立はネオ・ジオンの潜在的な国是でもあるからな」
サイド3は一年戦争ではあまり被害らしい被害を受けていない。終戦はア・バオア・クーでギレンやキシリアの戦死によって成された。
しかし、それはザビ家の敗北として見ているだけで市民の多くはまだ負けていない、打倒連邦という思いが何処かにあるのだ。
そしてサイド3の初めてとなる被害は連邦が放った卑劣なテロリストによるものだと言われれば猛烈に燃え上がること間違いなしだ。
「……で、なんでこんな電文が私に来るんだろうな。しかもこいつから」
「アレンが味方になればあるいは……と思っているんだろうな。自分達だけでは危ういとわかっての行動なのだからまだ救いはあるな」
電文の内容はMS開発の支援要請、差出人は……過激派代表フル・フロンタルである。