第二百九十話
明日から0094年……というのにあまりよろしくない情報を得た。
「まさかジーン・コリニーとジョン・コーウェンの2人が揃ってニューオーダーにつくとは……」
ジャミトフは2人共知っている……というよりも昔の同僚らしいが私が知っているのは星の屑作戦の際にガトーが奪った試作2号機などのガンダム開発計画の総責任者だったジョン・コーウェンのみだ。
確か、改革派でレビルの後釜に近い立場で、南極条約を破ったことやガンダムを強奪されたことで責任を問われて降格したことで閑職に追われたという話だったが……そして追い込んだ張本人は目の前にいるジャミトフであることももちろん知っている。
「それでジーン・コリニーというのは?」
「わかりやすく言えばジャブローのモグラの典型例と言えるだろうな。保守派に属し、ティターンズ結成前までは私の上司でもあった」
つまり、追い込まれて失脚した者と失脚させた者が同勢力に所属したのか。世の中何が起こるかわからないな。
「そんな彼が疎ましくて私が失脚させたのだがな」
「なるほど、失脚された者同士で和解した可能性があるな……能力的には両者はどうなんだ」
「実はかなり厄介なことになったかもしれない。両者共に大将であっただけに能力は確かだ。そして問題なのは両者がお互いに違う長所を持っているということだ」
説明によるとジーン・コリニーはジャブローのモグラだけあって同類(将官)との人脈が豊富で、組織運営に優れ、交渉や謀略などにも富んでいるようだ。
ジョン・コーウェンは逆に部下(佐官や尉官)など現場の者に今なお……いや、大将であった頃よりも強く支持され、組織運営能力はそれほどではないが軍の指揮には優れているらしい。
「ニューオーダーには統率者に足るかどうかはともかく、文と武が揃ったと?」
「そうだ」
「……火遊びしたら火薬庫だったわけだな」
「まさか彼らが出てくるとは思いもしなかった……いや、可能性は考慮していたが片方だけだと思っていたというべきか。あの2人が……ああ、そうか、やつの仕業か」
「この事態になる切っ掛けに思い当たる節があったか」
「おそらくだが……ゴップの仕業だろう。やつは今でこそ政治の世界にいるが元々は大将、しかも兵站を握っていた関係で現場にも幹部にも繋がりを持つやつなら可能だ」
なるほど、先日、妙にその名前が気になったのはそれが原因か。我が事ながら大した予知能力だ。
「今から始末しても……」
「遅いな」
だろうな。
さて、厄介なことになったな。
「しかしゴップが動く動機が…………もしやニューオーダーを連邦軍に飲み込むつもりか」
……意図はわからなくはない。
ティターンズとは違って生粋のアースノイド主義ということは欧州だけでなく、地球連邦にとっても使い勝手の良い駒だ。
何より連邦の軍はエリートや忠義に厚い者の殆どをエゥーゴ、ティターンズに引き抜かれて土台がガタガタで、再編して発言力を強めたいというのは当然の流れだろう。
アースノイド至上主義は保守派と相性がいいからな。
ただ……。
「ティターンズの二の舞になりそうだが」
「二の舞になったところで現状よりいい、そう思ったのではないか。また戦争となったとしても今となっては兵器の差はそれほどなくなった以上はジオン公国ほどの善戦は望めんだろう」
「私達が何もしなければな」
「違いない。故に近い内こちらに接触してくるだろう」
「久しいな。ジャミトフ」
「そちらも健勝そうで何よりだ。ジーン」
近い内に、とは言ったが年始に本人が直接出向くとは思いもしなかった。
せいぜい挨拶の通信ぐらいだろうと踏んでいたのだがな。
「くっくっく、失脚させた私に会いに来るほどの存在か、アレンは」
「……その反応から察するにやはりこの組織はおぬしのものではなく、本当にあの者のものか」
「私がこの組織を手にしていたなら先の戦いで敗北などせんよ。もっとも時間の問題ではあっただろうが」
「フン、身の丈に合わぬ理想など身を滅ぼして当然だ」
さすがは一時期は連邦の最大勢力の保守派の中枢に座っていた男だ。語ってもいない私の狙いを察していたらしい。
「それで、こちらには何用で参られたのかな。まさか私に力を貸せ、というわけではないじゃろ?」
こやつやコーウェンのような政争の敗北者や敗北そのものを抹消して降格した者達とは違い、私は犯罪者として裁かれている。
その私が動いてもそれほど効果があるわけではない。なにせこやつらはその手のツテには困っておらんじゃろうし、ニューオーダーのほとんどは元ティターンズ……つまり私の元部下にして、彼らを敗者にしてしまった無能な総帥だ。
「大体予想はできているだろう?」
「アレンに協力要請……ではなく、不可侵と言ったところか」
「落ちぶれても能力が堕ちていないようで安心したよ」