第二百九十二話
「アレンパパ、アレンパパ」
「どうした。プル」
「何か欲しい!」
なんだその具体性のない欲望は。
「最近、アレンパパが忙しいから……」
どうやら寂しく、取り合って欲しいだけのようだ。
容姿と違ってやはりまだまだ中身は子供だな。
「だから何か欲しい!」
つまり、取り合ってもらうのはワガママで私に迷惑が掛かる。だから何かもらってそれで慰めようというわけか。
「いいだろう。では、これをやろう」
「……これって」
「小遣いだ」
「そういうんじゃないもん!!」
「冗談だ。そうだな……」
というもののすぐにこれと言うものが思い浮かばない。
ほぼ常に研究のことを考えている私は寂しいなどという感情とは無縁であるため、喜ばせるという贈り物ならばともかく、慰めるものとなると皆目見当がつかない。
心理学的には人恋しい時の対処療法としては人形やペットなどが効果的とあったが、これは個人差がある上に、ペットは空気の消費量増加やプルの与えるとプルシリーズにも与える必要が出てくる。そうなると全員が全員、ペットの面倒を見ることができるというわけではないだろう。そうなればプルシリーズの誰かが面倒を見ることになり、トラブルのタネとなりかねない。
まだまだ未熟なプルシリーズ同士が拗れるとどうなるか……最悪死人が出ることになる可能性もある。
それに加えて、単純にペットの失踪や死亡で大騒ぎになりそうだ。
となるともう1つの人形ということになるが、私がする贈り物は基本的に手作りしており、もし人形を贈るとなるとそれを期待するだろう。
しかし、人形やぬいぐるみという類は割と面倒なのだ。サイコミュの部品と比べると手の掛かる製造工程が多い(アレン基準)のだ。
せっかくプルは私に手間を掛けさせたくないという配慮をしているのにそれでは意味が半減する。
それにこちらも結局プルシリーズに渡すことになるわけで、1000以上のバリエーションを考えるとなるとそれはそれで頭が痛くなる。
配給するものならともかく、贈り物でプルシリーズの個性へのこだわりを疎かにすると私の予想では暴動に発展することになるので要注意だ。
………
……
…
「……一緒に写真を撮るか」
「写真!いい!!」
寂しさを紛らわすなら思い出の品、思い出といえば写真という安直な思考でたどり着いた答えだったのだがプルの反応は思った以上に良かった。
正直、私としては微妙だと思っていたのだが……これって簡単にいえば、何処かのテーマパーク
のマスコットキャラクターとの記念撮影みたいなものだ。そのポジションを私が?……やはり微妙だ。
「早く撮ろ!すぐに撮ろ!」
「わかったわかった」
仕方ない、ここは私が作り出した高性能ハイブリッドカメラを使う時か。
ちなみにこの高性能ハイブリッドカメラは通常のカメラとサイズは一回り大きい程度にも関わらず、光以外にも音波を発して跳ね返りを計測することでより正確に精密な撮影が可能なのだ。
音波の跳ね返りで測るのは他にも質感のデータも取り、このデータを基に別製品になるがこちらも私が製作した高性能3Dプリンターによって人間や基本的な繊維で作られた服ならばほぼ100%再現できる。(100%の再現というのは姿形が、ではなく、材質も込みである)
他にもサーモグラフィーや赤外線は基本として服透視化、表面部の癌検診などが行うことが可能だ。
ちなみにこれを普通の企業が作ろうとすると高層マンションが1棟が建てられるぐらいの費用が掛かるだろうな。(土地代は含まない)