第二百九十三話
あの後、プルとはお互いを抱き合った状態で、プル2とは恋人繋ぎで、プル3は膝に乗せて……ということを2200人分(増えた)成し遂げた……10日掛かったが。
人形やぬいぐるみなどよりは楽なはずだが、それでも十分疲れた。
触手ではなく、私自身でお姫様抱っこはさすがにきつい……フェミニストとしては言いづらいがプルシリーズは軍人顔負けの筋力を有している。つまり、見た目以上にかなり重いのだ。
そもそもの話、既に……本当に遺憾ながらプルシリーズの上位ナンバーは私より身長が高いため、私よりも体重がある。
天才な私ではあるが、身体能力に関しては非凡(悪い方向で)である自覚はしている。
おかげで全てを終えた後は筋肉痛と疲労で治療カプセルを使う羽目になった。さすがにお姫様抱っこやおんぶなどで耐Gスーツを持ち出すのはどうかと思って控えたが、遠慮なく使うべきだったかもしれん。
「しかし予想外だったな」
何が予想外かというと、てっきりプルシリーズの間で写真が流行るかと思い、旧石器時代(言い過ぎ)に流行ったというプリントシール(倶楽部は商標権の関係で使えない)を用意した方がいいかと思って意見を募ったのだが、結果は非採用となった。
理由としては「写真に価値があるんじゃない!アレン(敬称省略)と撮ることが大事なの!」ということであった。
どうやら娯楽というより特別なものであるらしい……まぁ飽きないように適度にフレームの更新を行うなど手間が掛かるのでこちらとしては助かるが。
ただし、一部は写真自体に興味を示したようで今回使ったカメラほどではないが市販のものよりも高性能なカメラを提供しておいた。
ちなみにこれを知ったハマーンから自分も!という催促が来たのは言うまでもないことだろう。
そしてこれに影響されてカミーユとそのハーレムも思い思い写真を撮り、それを嫉妬の炎を宿して睨むビーチャとモンド、その脇で妹のリィナとラブラブ光線(死語)を発するエルとそれをニュータイプであるはずなのに鈍感系主人公のようにスルーするジュドーも撮影していたな。
ジュドー達もここに慣れたようで何よりだ。
「それに宇宙も随分と平和になってきたな」
ネオ・ジオンでテロがあったことを除けば、最近は宇宙は平和になりつつある。
その理由は、エゥーゴとティターンズにある。
ニューオーダーの台頭に焦った両陣営は自分の影響力を強めるために取った政策が今更ながらの宇宙の治安向上に乗り出した。
平たく言えば両陣営がタッグを組み、既得権益を固めるために宇宙海賊を締め上げ始めたのだ。
地球で蔓延し始めたアースノイド主義の収拾は無理として放棄し、少しでも発言力を強めようとしての行動なのだが……こうしてみるとアナハイムもエゥーゴもティターンズも致命的に政治が苦手なのだな。所詮商人と軍閥でしかないということか?
まぁ地球に住む者達にアースノイド主義のネガティブキャンペーンなんて行えば非難殺到なのは間違いないが。
「おかげでカミーユ隊が暇になったな」
「まぁ俺達が暇な方が平和でいいんだが、本当に今更動くなんて……クワトロさんも案外大したことないな」
カミーユがため息混じりに古巣を酷評する。気持ちはわからんではない。
「おかげで収入が減った上に手軽な実戦経験を得ることもできなくなったが、まぁ兵站を維持する必要がなくなったと考えればまだマシか」
度々ミソロギアを襲撃していた自称海賊もアナハイムの上層部数人が謎の死を遂げてから鳴りを潜めている……アナハイムの人間が死んで海賊が出なくなる。そんな露骨なことをすると公然の秘密が本当に公に出てくるぞ?
カミーユ隊に関しては依頼が減ったが、MDの方はまだまだ契約が続いている。
やはり少しの危険が致命傷になる宇宙であるから比較的安全になってきたとは言え、やはり完全に安心できるわけではない。……今まで放置していたエゥーゴとティターンズを信用しきれないという側面もあるだろうが。
「やっとイータを使いこなせてきたんだけどな」
「カミーユ、戦いに呑まれすぎ」
「私達はいつも心配してるんだからね!」
「お兄ちゃん、めっ!」
「うっ」
「アレンみたいになるわよ?」
「すまん」
確かに連戦連勝、しかも大きな被害は無しとなれば気が緩んでしまうこともあるだろう。
……それとそこで私の名前を使わないでもらおうか。私はそんな生易しいものではないぞ。
「少し引き締めが必要かもしれないな」
カミーユ隊は中破判定があったりしたが、結局は戦死者は0のままだ。これにより思春期特有の中二病、自分が主人公であるかのような錯覚などに陥ってしまう可能性が高い。
前々から問題になっていることだが、なかなか解決、予防がなされない。これが私の作品の力だといえばそれまでだが……最悪は大規模な戦いでボロがでなければいい。大規模な戦いにおいて露呈してしまえば1、2人ではなく何十という死者が出かねず、結果的に敗北してしまう可能性もある。
戦いに絶対はないが勝率を上げるための努力は怠る訳にはいかない。