第二百九十四話
「……デジャブ感が酷いな」
平和になりつつあった宇宙。
そう『あった』だ。
その平穏が一転して突然海賊が横行し、エゥーゴとティターンズの部隊と激しい戦闘が繰り広げられるようになったのだ。
「全く、人類は本当に学ば……いや、学んだ結果がこれなのか?」
その海賊の正体は……まぁ察しの良い者達はわかっているかもしれないが……ニューオーダーだ。
このような流れになったのは大まかにまとめれば——
エゥーゴ&ティターンズ宇宙で海賊退治で大活躍!
↓
大々的に放送して支持を得ようとする
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スペースノイド風情が目立ちおって!!と息巻くニューオーダー
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そんな思いも知らぬとばかりに連日海賊を討伐したとの報道が流れ続ける
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くそ、調子に乗りおってからに……どうにか痛い目に合わせられんのか!
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あれ?それって俺らがやればいいんじゃね?
やっちゃう?
やっちゃうか?
やっちゃおう!
↓
ニューオーダー、宇宙海賊に進出するってよ
↓
アースノイド主義の企業などを味方に付け、いざ宇宙へ!
↓
世は正に大海賊時代!←今ここ
そして皮肉なことにこの戦術、元々は前回の内紛でエゥーゴが用いたものであるということだな。もっともニューオーダーには万民向けの大義名分がない(エゥーゴはティターンズの虐殺などがあった)以上、エゥーゴよりも劣悪だろう。
やはりゲリラ戦……特に宇宙では単艦、もしくは小規模艦隊での運用が1番理にかなった戦術であるのか?まぁレーダーを頼らなければ観測もろくにできない者達が多いのだから当然かもしれないが。
「そんな奴らに交易所を解放している私達もどうかと思うがな」
「来るもの拒まず(ただし敵意があったら問答無用で死刑)だからな」
ニューオーダーはしつこいがアースノイド至上主義だ。そのため、宇宙がエゥーゴやティターンズの本拠地であることを差し引いても宇宙の拠点なんてあるはずもない。そして海賊としてのノウハウがない以上は海賊なりの兵站というものも確立できない。
そこで目をつけたのが超がつくほどブラックな私達の交易所だった。
実際水から始まりドロス級の艦まで販売しているのだから目をつけて不思議はない。
ただ、海賊を名乗っている奴らが大人しく利用するわけもなく——
「最初に海賊らしく奪いに来てたが、半数のMSが私が製造したMSだった時はなんとも言えない気分だったな」
可能性として考えていなかったわけではないが、実際そうなってみると微妙な気分だ。
せっかく製造したのに何が悲しくて自分で破壊しなくてはならないのか……例え玩具程度のものであっても、だ。
「そして捕まえた者全員を生首にしてジーンに送りつけるとはなかなか気の利いた心遣いじゃな」
「そうだろう。その程度で許す私の度量に感謝しているだろうな」
本当はその生首にちょっとした細菌を植え付けて送ってやろうかと思ったが、さすがに全面戦争になりかねないと自重した。
「おかげで収入が増えて予定より蓄えができて助かるがな」
額面では知っていたが、さすが連邦の下部組織……ネオ・ジオンなんて比にならない金額が集まってきている。ニューオーダーへの初期投資の分は軽く回収できているのだからその規模の違いが伺い知れる。
軍需産業は本当に儲かる。死の商人が居なくならないわけだ。
「これが半年も続けば予定していた物資量に到達する計算になるが……さて、アレンはどう思う?」
「戦況はいい勝負をしているとは言ってもやはりならない宇宙での戦闘に不慣れなニューオーダーの方が被害が多い気がするが……1ヶ月を過ぎるまでにニューオーダーが大敗しなければ長引く可能性が高いな」
エゥーゴもティターンズも軍縮の影響で大規模な部隊運用が難しく、しかもコロニーの防衛まで行わなければならない。
それを逆手に取って不慣れな宇宙戦闘を数で押し切る、もしくはコロニーを襲って本当に強盗を行うという戦術を取るニューオーダー。
「勝負の分かれ目は交易所が補給拠点となっていることにエゥーゴとティターンズがいつ気づくかだな」
神出鬼没の海賊だからこそ手間取っているが、そこにいるとわかってしまえば質の高さとそれなりの数を揃えれば負けることはない。つまり、交易所を張っていれば海賊の補給路は絶たれ、活動できなくなるわけだ。
「……エゥーゴ等がこちらも巻き込もうとせねば良いがな」
「その時はまた高い授業料を払ってもらうだけのことだ。……とはいえ、次世代機の完成を急がなければならないか」