第二百九十五話
これはミソロギアの交易所で交わされている会話である。
「全く、宇宙海賊にも困ったもんだな」
「本当に迷惑だ」
「おかげで定期便か護衛を雇わねばここまで安心して来れんありさまじゃ」
定期便とは不死鳥の会が運営しているサイド3—交易所—地球orサイド6という航路であり、その航路はMDが警備にあたり、今まで事故事件の発生が起こったことがないもっとも安価で安全な交通手段である。
護衛は最近プルシリーズの数が揃い、熟練度も一定水準に達したと判断して主に海賊狩りという攻撃を主体とするカミーユ隊とは別に航路を保護する護衛部隊をこの軍規香る海賊の横行している今を機に設立したものである。
護衛部隊はMD母艦をベースとした機動力と防御力を重視し改造した艦に、キュベレイ・ストラティオティス4機が1部隊とし、母艦乗組員5名正パイロット4名、予備スタッフ1名、内1名が上位ナンバー、そして他はプルシリーズが増えたことによって新たに労働力として一人前になった個体を中位ナンバーという呼称が付けられた者で構成されている。
ちなみに上位ナンバーという呼称は、当初こそ本当にナンバーが上位だったからそう呼ばれるようになったが現在では能力基準で付けられる、所謂年功序列であったものが実力主義的な呼称へと移り変わったのだ。
もっとも上位ナンバーはほとんどが年功序列のままだったりするが。
「それにしてもここも不思議な場所だよな。連邦にも属さないのに宇宙で1番平和だってんだから」
「おいおい、こんなヤクザもんばかり集まってるここが平和なわけが……ほんまや?!」
「ちょっと前までネオ・ジオンも平和だったんだがなぁ。あのヤバイ連中が出てきてからきな臭くなって来たしなぁ」
「ああ、俺は地球出身だから特にやべぇぞ。入国にめっちゃ時間食うし、少しでも危険な薬品があったら最悪だ。ちなみに俺もそれに引っかかったんだが何で引っかかったと思う?」
「マリファナでも持ち込んだんか?」
「そんなもん普通に規制されてるに決まってんだろ!」
コロニーという密閉空間で強い副作用、特に幻覚作用や興奮作用のあるものは地球以上に厳しく規制されている。
「正解は……整髪料だ!!」
「は?整髪料?」
「そう、整髪料だ。ちょっと引火性が強いものだったんだが、それがお気に召さなかったようで随分と尋問されたぜ」
「はぁ〜、気持ちはわからんでもないけど、限度ってもんを考えろよなぁ。ネオ・ジオンも」
「その点、ここは爆発物すら持ち込んでも文句言われないからな」
「そのかわり、手をかけた瞬間に何処からともなく抹殺部隊から襲撃を食らうがな」
「そういや、以前からなぞのスピードで駆けつける奴らだがここのところそれが更に磨きがかかってねぇか?この前、銃を抜こうとした奴がいたんだが、誰にも気づかれる前に銃が抜き取られていて唖然としていたぞ」
「これがニュータイプってやつなのかねぇ。そんなすごいなら俺も是非なりたいもんだ」
「それは言えてる。あれなら銃なんて怖くねぇぜ」
(男が)ニュータイプになるのがどんな拷問か知らない男達の幸せな戯言である。
ちなみに抹殺部隊こと治安部隊であるプルシリーズの反応速度が早くなったのはスミレが開発した未来予測システムを交易所に導入することで以前にもまして初動が速くなったのだ。
ただし、この未来予測システムは対象が増えれば増えるほど操縦者に精神的に疲労させ、中位ナンバーのプルシリーズであれば1時間程度しか起動できないので交代で務めている。
「ん?緊急速報か」
「なんだ、また海賊が出たのか。いい加減学習すりゃいいのにな」
「あの護衛は絶対抜けれないっての」
「あいつら4機なのに10機以上の海賊を一蹴するからな。どう考えてもあの機体って決戦兵器かなんかだよな。普通なら」
「確かネオ・ジオンの宰相様の機体の量産機って話だから違うんじゃね?」
「でもあれが普通のMSって言われてもなぁ……明らかに連邦なんかよりすごくないか」
「まぁそう言われるとな……ところでその手に持ってるのは……」
「ああ、これか?これは娘への土産だ。ここのマスコットキャラのアルヒちゃんというらしいぞ」
「それってたまに宇宙でワタワタと泳いでるやつだろ」
「それだな。なんでこんなぬいぐるみになってるのか知らんが娘への土産にちょうどいいかと思ってな」
「……俺にはできの悪いアルマジロにしか見えないが」
ハマーンとプルシリーズによる肝いりで開発されたアルヒちゃん(キュベレイ・アルヒ、訓練機兼支援機のずんぐりむっくりなキュベレイ)のぬいぐるみであったが販売場所が交易所という圧倒的なブラックで、男ばかりの場所では購買層の違いで売れ行きは芳しくなかった。