第二百九十六話
「全く、地球に巣食う旧人類の考えることは度し難いな」
「仕方ありません。皆、シロッコ様のように聡明な方ばかりではないのですから」
サラの言葉もシロッコには届かない。
何が度し難いのか、アースノイド主義の部隊設立と台頭のことか?いや、これはシロッコ自身とエゥーゴの手落ちであるのだから責めるに値しない。
ならば海賊行為に関してか?いや、それは内紛を表面化させずに武力衝突という舞台を用意してくれたことはむしろプラス要因である。
となるとサイド3で無差別テロを起こしたことか?いや、そんな他国に等しい場所で起こったことなど知ったことではない。
なら、何がそれほどに度し難いのか?
「神を利用しようなどとは恐れを知らない奴らだ……無知とは恐ろしいな」
ここでいう神とはもちろん人類というより本当の意味でニュータイプと言っても過言ではないアレンのことである。
シロッコにしろ、クワトロにしろ、アレンについては腫れ物のように触れずにやってきた。
シロッコは人類の新たなる可能性を、クワトロは触らぬ神に祟り無し、と。
それ以前にアナハイムが無謀にもミソロギアを襲っていたのだが、残念ながらそちらはシロッコが知るところではなかった。
アナハイムの動向を知るというのは政争相手であり、規模が大きすぎてなかなか難しいのだ。そもそもその大きさゆえにアナハイム自身が内部の動向を把握しきれていないのだからある意味仕方ない部分もある。
「神の怒りが地球を焦土と化すとは思い至らないらしいな」
「彼等は隠し通せていると思っているのでしょうね。彼が本気を……いえ、その気になれば止めようがないというのに」
シロッコの憤りがこもった声に同調するようにマウアーも辟易とした様子でつぶやく。
ティターンズとエゥーゴ(厳密にはアナハイム)のMS開発の方向性はある程度定まってきている。
結局はエース機にしても量産機にしてもオーソドックスなライフル、シールド、迎撃用バルカン、サーベル、高威力実弾兵器(ミサイルやバズーカ)が好まれ、機動力と運動性も通常の人間が扱う分には頭打ちとなってきている。
簡単に言えば、量産型はジェガン、エース機はジ・Oのような機体が最適解となりつつあるのだ。
にも関わらずアレン達は決戦兵器の量産という暴挙を一向にやめようとしない。むしろ、シロッコ達は詳しく知らないが更に上を目指しているというのは研究者という生き物である以上は決まっている。
そんな規格外に連邦軍で対抗するならばともかく、1派閥で対抗しようというのはジオン公国がコロニー落としをせずに連邦と正面対決するぐらいに無謀なことなのだ。
「とはいえ、対抗してあんなものを作り出してしまった私が言えた義理ではないのだが」
シロッコが言っているのはジ・Oの後継機……どちらかというとアンチ決戦兵器(対クィン・マンサ)を目指したジ・Oの開発を試みていた。
ジ・OにTRシリーズの開発データやオプションパーツを流用し、更にパラス・アテネの背部バインダーを装着させ、対艦ミサイルではなく、核ミサイルを装備させるなど手段を選ばない方法で設計したのでデータとして再現し、シミュレーションで手に入っているクィン・マンサのデータとシロッコ直々に戦わせて見た結果、辛勝。
「たかがデータに辛勝だったなどと……恥ずかしすぎる。実際に戦えば負けるのは間違いないな」
こうしてシロッコにまた1つ黒歴史が刻まれる。
ちなみにデータ上でとはいえ、クィン・マンサに勝利したのだから何機か揃えれば……と思うかもしれないが、使えば敵からも味方からも非難殺到の核ミサイルを12発も使って何とか勝ちを拾う程度では戦いで勝っても勝負には負けたも同然である。
「ニュータイプ部隊の拡充はどうなっている」
「やっと100人の定数に達しました。しかし、ニュータイプでありますが使えるかどうかと言われると……」
「あの旧人類海賊を狩りに行かせろ。経験を積めば輝くさ」
「わかりました」
そう言ってすっかりシロッコの副官が板についてきたレコアが携帯端末で指示を出す。
ちなみにニュータイプ100名と聞けばすごい部隊だと聞こえるが、全てがカツ・コバヤシであると思えばその内容がわかるだろう。