第二百九十七話
「野郎共!仕事の時間だ!!」
「やってやるぜ!」
「目標を駆逐する」
などと海賊のような口ぶりをしているが、彼らのMS捌きは明らかに海賊の荒々しいものではなく、どこかお上品な機動……悪く言えば教本通りとも言える機動を行う3機の小隊。
彼らが狙うのはサイド6に向かう交易船である。
ただし、サイド6へと向かう航路にしてはこの交易船は大きく外れている。
これには事情がある。
ここ最近の海賊の活発化によって治安維持に莫大な税金が注ぎ込まれてしまい、そこにアースノイド主義は更に一手を打つ。
各サイドへの航路に治安維持部隊(エゥーゴやティターンズ)を集中させることで治安を保ち、そしてその航路上に関所を設け、関税を掛けることで治安維持部隊を維持しようというものである。
普通に考えれば経済界が黙っているはずもないのだが、そこは地球の企業は優遇することで黙らせて宇宙の企業の声はそもそも連邦自体が拾う気がないので議会を素通りしてしまう。
これによってエゥーゴやティターンズの活動資金はスペースノイドから徴収されることとなり、更に物価の上昇まで引き起こし、エゥーゴとその支持基盤であるスペースノイドの離間を画策したのだ。
実際効果は出ていて、エゥーゴは随分苦しい立場へと追いやられている。
ただ、これはあくまで関所を通らなければ違法というわけではなく、安全を保証しないということである。
つまり、この交易船は正式航路から外れて航行しているために海賊に狙われているわけである。
ちなみにこれもニューオーダーの狙いの1つである。
「今回の獲物はあんま大したことなさそうだな」
交易船にしてはサイズが小さく、これを運用している企業は商才が無いだろうな。と部隊を率いる隊長は笑う。
実際のところ、海賊に襲われるリスクを負い、時間や経費まで掛けて遠回りまで商いを行うというのなら1度にそれなりの量を持ち運ばなければ満足いく成果を得られることはない。
もちろん、知的財産的な取引なら得られるものは多いだろうが、こちらは関税の対象にならないのでそもそも航路を外れる必要性はない。
つまりそれもないし、海賊達もそれを期待していない。
「今日の酒は安酒になりそうだな」
本職は軍人であるが、現在は海賊であり、給料は変わらないがボーナスは歩合制で強奪した成果次第となっている。
戦闘があまりないとはいえ、やはり無抵抗な人間を襲うというのは訓練を受けている軍人であっても良心が痛むのでボーナスがないと士気は保てないのだ。
「さて、お仕事お仕事……ん?ハッチが開いた?!各機、警戒を——」
「うおっ?!脚部損傷——カメラがッ——」
部下から被弾の報告が次々とあげられようとしたが——次の瞬間には機体の爆炎の映像によって最後が伝えられた。
「ビルッ?!クソ、この距離でこいつのビームコーティングを貫通するビームだと?!」
海賊達が操っている機体はミソロギア製のジェガンクラスと呼ばれる機体なのだが、このジェガンクラスのビームコーティングはニューオーダー立ち上げ前に支援した機体であるために勢力的には小さいもので、人的資源が貴重であるということで特別分厚く施されているため、防御性能は現行量産機の中ではトップである。その分コストは高いが。
そんな機体を、こちらの有効射程に捉える以前の距離で撃たれて貫通させるその威力は間違いなく——
「これは囮……しかも特殊機か?!」
ハッチからの射線を切るよう回り込むように動くとやっと相手が姿を現す。
「ガ、ガンダムタイプだと!」
「た、隊長!どうしますか!!」
「撤退だ!回避行動を取りつ——」
全てを言い終わる前にまた1つ、爆炎があがる。
「そ、そんな、馬鹿——」
そして、最後に1つ、爆炎が出来上がった。
「ふむ、やはり奴ら相手ではこのようなものか」
「Sガンダム、収容します」
海賊を瞬く間に灰へと化したMS、Sガンダム。
以前、唯一と言ってもいいプルシリーズと真っ当に戦うことができた存在である。
「無人機テストには丁度いいかと思ったが、これではあまり効率がいいとは言えんな」
「しかし、あのデスゾーンにもう1度挑むのは……」
デスゾーンとは言わずとも察するだろうがミソロギアの存在する宙域である。
「わかっている。この機体を無駄にするほど我らの予算に余裕がないことは、な」
今回の他にもSガンダムは2機存在するが、逆を言えばこれしか存在しない。
そして、これで一定の成果をあげなければ企画自体の終了を意味していた。
「まだだ。まだ終わらんよ」
ちなみにクワトロさんではない。