第二百九十九話
「さて、やっとこれでクィン・マンサIIの完成だ」
「長かったですねぇ」
アレンとスミレは完成した機体を感慨深く眺めていた。
色々と寄り道はしたが、ここ何年もの間もっとも大きく時間を割いたのは間違いなくこのクィン・マンサIIである。その完成に思うところがないわけがない。
しかし、クィン・マンサIIの完成と言っているが——
「あの……とてもMSには見えないんですけど」
クィン・マンサIIのお披露目としてプルシリーズのほとんどが集まる中で勇気ある個体がやり遂げた感が漂うアレン達に問うた。
その言葉の通り、眼の前にあるのはMS……いや、MAですらなく、ただただ大きな金属が転がっているようにしか。
「これはだな。こうして——」
膨大な思念が流れ、周りにいたプルシリーズ達は突風でも受けたかのように数歩後ろによろめく。
そして転がっていた金属が勝手に動き出し、次々と組合わさり……そして——
「これがクィン・マンサIIの正式な姿だ」
「「「「おおーー」」」
そこには腕や脚、胴体がゴツゴツして一回り大きくなった新たなるクィン・マンサの姿があった。
「以前のクィン・マンサよりもサイズが大きくなったことでグワジン級ですら収納するのに苦労するので対策として考えたのがこれだ」
ひらめきを得る基となったのは連邦のガンダムのサポート機であるGファイターである。
Gファイターの概要はガンダムそのものの汎用性を更に高めるために、ガンダムに元々備え付けられているコア・ブロック・システムを応用して空戦能力(Gファイター)、砲撃支援(Gブル)など行うサポート兵器であった。
クィン・マンサIIに導入したのはその支援システムはそこではなく、別兵器が一体化するシステムであった。
まずビームコーティングの高性能化に伴い、現行のビームでは出力不足とまでは言わなくとも有効射程が短くなって来ていた。
有効射程が短くなるというのはその分だけ交戦距離が短くなり、その分だけパイロットの精神的疲労が割増され、ミソロギアではニュータイプ能力の低下に直結し、戦闘能力の低下に繋がる。
それを解決するために、Gファイターのようにコクピットである頭部と胴体部、両手、両足、両バインダー、ファンネルコンテナ、計7個のパーツにそれぞれ核融合炉(胴体部、両バインダー、ファンネルコンテナは大型、他の部位は小型)を備えさせたのだ。
これによってビームの全体的に高出力化させることができ、連結させて集中運用させることで超高出力化させることができるようになった
「そして当然だが——」
クィン・マンサIIはバラバラに分離し、各パーツが宙を華麗に舞う……と言いたいが人型の四肢や胴体、頭部が宙を舞うのは贔屓目に見てもただのホラーである。ただし、プルシリーズには好評なようでやんややんやと騒いでいるが。
「このように分離して動かすことも可能で、当然攻撃も可能だが……まぁそれを十分に活かせるかはパイロット次第だろう」
アレンなら問題なく十全に扱える。しかし、ハマーンはどうなのか……データ上では扱えて7割と言ったところである。
なにせこの各パーツにファンネルまで操らなければならないのだからその難易度はハードという言葉では優しすぎる。
「そしてこれと共に戦う機会が訪れるであろうお前達に言っておくがこのクィン・マンサIIは通常MS同士のビームライフルの有効射程ならば搭載されているファンネルを除く全兵器で現行のIフィールドは貫通し、装甲までは通さないだろうが数発受ければ怪しいぞ」
新機体に浮かれていたプルシリーズだったが、空気が一変してピリッといたものへとなった。
クィン・マンサIIのビーム砲は全て合わせて36門あり、全てがIフィールドを貫通するとなれば今までとは少し戦い方が変わる。
今までは味方に誤射をしても防御性能の方が優れていたので、狙うわけではないが気にもしなかった。しかし、これからはこのクィン・マンサIIが共に戦う上にそれと同等……いや、ダウングレードはされるだろうが、それに近い性能のMSが量産され、主力となるというのは決定事項であるのだから意識せずにはいられない。
そういう意味では近距離で飛び回るがよほど近距離で無い限り出力が低いためIフィールドを貫通しないファンネルはもっとも運用しやすい兵器となったと言えるかもしれない。
「ちなみに腕部と頭部と胸部と腹部の4門の高出力メガ粒子砲は長距離からでもIフィールドを貫通するぞ」