第三百話
全頭頂55mとMSとしては最大サイズである(参考資料としてはクィン・マンサやサイコ・ガンダムは約40m、ビグ・ザムは約60m)クィン・マンサIIはそんなものではない。
「スミレが開発に成功した未来予測システムにより近接戦闘という限定的なものだがニュータイプ能力のレベルに関係なく、未来を予測することができる」
ちなみに敵がオールドタイプなら的中率は95%とかなりの精度を誇るが、その変わり相手の思念の感知の遅れから中遠距離では大したサポートは受けられない。それに加え、パイロットや機体が反応できるかどうか別の問題なので予測できたとしても混乱するだけ、反応が鈍るだけという結果になりかねない。
それはこれから地獄のような訓練で慣れていくことになる。
「そして、私の開発したサイコミュ・リンク・システム(PLS)との相乗効果により近接戦闘においては味方の動きの予測はほぼ100%となった。これで同士討ちやお見合いなどの不測の事態を未然に防ぐことができる」
「「「おおー」」」
MSにおける近接戦闘の難しさは敵パイロットとの距離が近すぎて思念がプレッシャーとなりニュータイプ能力の低下を招く以外にもファンネルのよる数の力が活かしにくいことがミソロギアのドクトリンに適していなかった。
しかし、それが解決されるならファンネルで乱し、孤立させ、プルシリーズ複数機による近接戦闘をもって短期決着という手段も実現可能になる。
もっとも現在はクィン・マンサIIにしか両システムが搭載されていない関係で僚機に一方的に伝える形になるだけで完全な予測するには情報量が足りないのだが。
「更にクィン・マンサIIというわけではないが完全独立サポート機を用意した」
「それがこの脚がないデフォルメされたカニみたいなMAです」
いつの間にか現れていた妙に愛嬌があるカニメカがそこにいた。
全高は20mと現在の量産型MSとほぼ同サイズで、言ったとおり手が2本あり、カニのようなハサミのような形状をしていた。
「これは強化人間型OSが搭載され、支援砲撃を行う。以前まで人工知能による無人機はハッキングの恐れがあるため回避してきたが、PLSによる同期で指示を大まかに出すことでその危険性は大きく減らしたことで実働を決定した」
このカニメカの名前はカヴリ、ギリシャ語でカニを意味する安直な名となっている。
「へー」
「ほー」
「ふーん」
関心はあるが、微妙な空気がプルシリーズの中に漂う。
「アレンパパ!」
「なんだ」
「カニって何!」
プルの元気のいい声で問われた内容に他のプルシリーズも頷く。
(そういえば可愛いもふもふした生き物には興味があっても、虫や爬虫類などの現代の一般女性が嫌いそうな生き物は興味を示さないか)
つまり、基礎教育に偏りがあるための弊害である。
そもそもアレン自身も随分と偏りがある……というか自身が興味を覚えたものを優先する思考がそのまま教育にも出ているのだ。
それにミソロギア内で生活しているとそんな知識はあっても役に立たないのだから優先順位が下げられても仕方ないことだろう。
(カニの養殖にも力を入れてみるか、確かアレは美味いという話だし……見た目はあまり美味そうにないが)
「……それは後で各々調べるように」
「「「はーーい」」」
「さて、このカヴリの説明を……と言ってもこの機体そのものは手にメガ粒子砲が2門、頭頂部にバルカンが2門、胸部にミサイルランチャーが4門、耐ビームコーティングを何重にも施して防御性を強めてその手のハサミはヒート・ホークとなり近接戦闘が行える程度の面白みの無い機体だがな」