第三百一話
さあ、機体説明が終わりクィン・マンサIIを試運転……と普通なら行くところだが、残念ながらこの機体はハマーン専用機であり、ここにハマーン本人はいないし、プルツーなら操縦できるがそれをするとハマーンは激おこして面倒なことになる。
アレン自身が操縦するならばハマーンも納得するだろう。しかし、これにも問題があった。
「私では身体が保たん」
平たく言うとクィン・マンサIIの機動性と運動性を十全に発揮させようと……いや、半分であったとしても掛かるGにアレンの肉体では耐えられないのだ。
「遠隔操作もできるがそれでは意味がないし……大人しくハマーン到着まで待つか。とりあえずカヴリのテストだけか」
カヴリならPLSを搭載しているプルツー専用機であるキュベレイ・エスティシスでも扱うことができる。
扱うと言っても厳密に言えば、ハッキング対策としてPLSを経由して攻撃対象の設定を行うだけの簡単なものであるため、クィン・マンサIIであろうとキュベレイ・エスティシスであろうとそこに誤差はない。
強いて差を上げるとするならばパイロットの攻撃対象の設定速度や母機との連携ぐらいだ。
「しかしカヴリはあまり好きではないな」
デフォルメされたカニを見ながらジャミトフがぽつりとつぶやき、それを聞いたアレンは視線で続きを促す。
「高度な技術で作られた無人兵器は予測がつかぬ事態というものが起こりうるものだと思う。わかりやすい例だと昔の映画でよく題材として使われていたような人工知能による人類への反乱などじゃ」
パッと聞いた感じでは保守的な意見であり、研究者や開発者にとってはあまりよろしくない考え方であるのだが、アレンは特に気にした様子もなく続ける。
それはジャミトフの言葉に裏があるからである。
「そこまで高度な判断ができるほどのスペックはないが……確かに予期しない何かが起こる可能性はあるか」
「それでプル達を失うようなことにならなければ良いのじゃが」
ジャミトフのプルシリーズへの愛情、過保護さを感じさせる言葉にアレンは苦笑いを浮かべる。
しかし、その意見に納得する部分があるのも確かだったので完璧には不可能かもしれないが打てる手は打っておくべきだろうとアレンは対策を検討することとした。
((もっとも人工知能より私(アレン)が暴走する方が先のような気がするが))
と身も蓋もないことを2人が同時に思ったのは間違いなく日頃の行いのせいだろう。
カヴリの試運転を始める。
カヴリの脚は普通に二足あるのだが、その足は短く、明らかに歩行に向いていない作りとなっていて主にカタパルト射出を行うためのものであり、おまけ程度にスラスターが付けられていた。
「これを主力兵器として採用するなら専用のカタパルトが必要だな」
クィン・マンサIIにしろ、主力モビルスーツであるキュベレイ・ストラティオティスにしろ大型であり、サイズに大きな差があるため、足の大きさ、足幅、強すぎる射出速度など色々な面で効率が悪いのだ。