第三百二話
「これは……思わぬ結果になったな」
現在、プルツーが率いるカヴリvsプルシリーズ下位ナンバーの模擬戦の真っ最中。
本来のコスト比ではカヴリ4:キュベレイ・ストラティオティス1が正しい試験なのだが、とりあえずの試作であるために2:1というカヴリが圧倒的に不利な戦い——
「のはずだったんだが」
死を恐れぬ敵というのはなんとも厄介なものだ、とアレンは感じた。
カヴリは何度も言うが無人兵器、死を恐れるはずもない。その上、人工知能である強化人間型OSの蓄積データで1番有力なデータは圧倒的に量が多いプルシリーズ、そしてその中でも質のいい上位ナンバーのものになるのが自然な流れである。更に恐怖はもちろん、殺意すらもない。
つまり——
「ニュータイプ能力を封じられるとこれほど脆いとは……鍛え方が足りない……いや、教本の作り直しが必要か」
プルシリーズは人間相手ならば相手の技量にもよるが最低2手先、上位ともなれば10手先程度は読める。
その環境が今まで当たり前だったが、今回初めて完全な無人機(MDも無人機だがアレンの意思が強く作用するため感覚的にはセミオート)相手に想像よりも苦戦していた。
戦闘自体はプルシリーズは何とか身体能力だけで対応して戦闘を成り立たせているといった様相だ。
Iフィールドを搭載していないカヴリだが、ビームコーティングは通常機の5倍は施されている。
本来ビームコーティングは重ね過ぎればビームへの耐性は高くなるがその分機体が重くなるために機動性、運動性が落ちてしまい、結果的に被弾することが多くなる。
それに実弾などを受けてしまえばコーティングが簡単に剥がれてしまうのも難点もあった。大した威力もないバルカンが標準装備から外されない要因の1つにもなっていた。
しかし、カヴリの回避能力はそこそこ高い上に人工知能ゆえの連携で上手く立ち回っていた。
そして何よりカヴリとキュベレイ・ストラティオティスの回避能力や数への対策であり、主要武器であるファンネルとの相性が最悪だったのだ。
「ファンネルであのコーティングを抜くとなればかなり時間が掛かる……私は一体なんの兵器を作ったんだ?これでは対プルシリーズ兵器だ」
プルシリーズのデータを満載し、ニュータイプ能力を封じ、キュベレイ・ストラティオティスの強みを殺し、強みを殺した結果最大の弱点である量で押しつぶす。
もちろん、まだ無人機に対して不慣れだから、と言えばそれまでではあるがこれに近いことが実戦で起きてしまえば犠牲者が多くでても不思議はない。
「……なんとか勝ったか」
アレンの眺めるモニターにはキュベレイ・ストラティオティスがビームサーベルでカヴリを一刀両断にした光景が映し出された。
しかし、本来遠中距離を主体とする機体が接近戦で決着を付けたというあたりが苦戦を物語っていた。
「……ファンネルの新型も開発すべきか」