第三百三話
カヴリの善戦で気を揉んできたアレンだったが結局のところ、苦戦したのは下位ナンバーのみで中位以上ともなれば、やはり最初は共鳴できないために苦戦はしたが中位ナンバーも上位ナンバーもそう経たずに慣れたようで問題なく快勝した。
アレンの杞憂は払拭される形になったが新たに1つ問題が出てきた。
「これと似たものをアナハイムが作れる可能性があるのか」
以前半自動化されていたガンダムタイプを思い浮かべた。
あれから何度も海賊になりすましたアナハイムの私兵と戦ってきたため、いくらかは情報が漏れていると考えるべきであり、そうなると前よりも苦戦することが想像できる。
「そもそもあの機体は悪い機体ではなかった。あれが無人機として花咲くことがあればそれなりに苦戦するかもしれんな……大量生産ができれば」
無人機の最大の強みは時間の短縮である。
人間を育成するのに必要な時間は促成栽培されるプルシリーズですらそれ相応に時間が掛かる。
なにせ初代であるエルピー・プル誕生から10年以上経っているがまだまだ未熟であるのには変わりないのだ。アレン基準で。
……ちなみに、本当にちなみにだが、プルシリーズの身体的成長はかなり緩やかである。そのために原作のマリーダ・クルスのような成長もまだしていない。
なぜプルシリーズの成長が緩やかなのかは謎に包まれている。そう、謎なのだ。こっそりアレンが定期検診で何かしているような形跡があるが謎なのだ。
それはともかく、それだけ人間の育成には時間が掛かる。しかし人工知能は資源とエネルギーとデータさえあればいくらでも複製、製造ができる。
現代でも少年兵という存在がいるが、それも結局は子供の方が短時間、安価で戦力化ができることか使われている方法なのだ。他にも敵に子供を殺させるという精神的ダメージを与える、警戒心の低下なども含まれているが話がそれは別の話。
「いや、大量生産は難しかろう」
「ん?」
「私のように人工知能を危険視する声は意外と多い。特に軍事兵器ともなれば反逆された時にどういったことになるかを考えると大量生産を嫌がるだろう。それによって今の段階でそれを行えば大量の失業者が生まれる。現在は戦後であるから職に困らない……なんてことはなかろうな。軍人というのは潰しが効かん上に機密を抱えておるし、何より心が病んでおることが多い」
元政治家らしい意見を述べるジャミトフにアレンは頷いて理解を示す。
「つまり秩序を維持するために有力な手札を見送るっと……研究者としては愚かなことだと思うが、率いる者としては理解はできる」
実際アレンは秩序を乱すのを恐れてプルシリーズ以外のクローン体を実験体以外で生み出していない……満足する個体ができなかったというのもあるが。
そして無人兵器が兵士という役割を担った時、兵士としての仕事がなくなったプルシリーズはミソロギアの中でどういう立ち位置になるのかという話もある。
今はほぼ全員が兵士として活動しているが、それが失われることになればアイデンティティの崩壊であり、未熟なプルシリーズ達がどういった行動をするのかはアレンにも想像がつかなかった。
「となるともし無人兵器が開発されるとすれば戦術兵器クラスが数機といったところか」
「そのあたりだろう。もしかすると人間を乗せて濁す可能性もあるが……」
「人間が無事で済む程度の無人兵器なら問題はないはずだ」
「そうだろうな。そうでなければ困る」
声にはしなかったが最後にはプル達のためにも、という言葉が付け加えられているのは間違いない。